第28話 資金不足

シゲヒロの度重なる浪費により洋館の財政は圧迫されていた。ドリアードの力により穀物などは短期間で収穫できるため食費は肉の購入費程度だ。住居はタダのため資金は必要ない。着るものもドリアードが作ってくれているし、ブラウニーが新品同様に洗ってくれているため困っていない。このように衣食住には何の問題もないのだが、これから行おうとしていることにはお金がかかる。ウイスキーの作成には原料となるビール代、熟成させるための樽代が。戦闘部隊(元冒険者)の活動には装備代と移動のための馬と馬車が。魔製氷を作るには作成できる人材と工房が。というように何をやるにもお金が必要なのだ。マッチ箱の売り上げは順調なため時間が過ぎればまた資金はできる。だが今は我慢の時だと皆で訓練に励むのであった。


そんな日が一月程度続いた時、ウイスキーの熟成がひと段落した。熟成期間はそう長い物ではないが十分売り物になる代物だ。シゲヒロは早速これを領主館に運ぶことにした。


所変わって領主館、現在表門で待たされている最中である。シゲヒロはアポも取らずに尋ねたため領主館側の準備が整っていないとのことで門の前で待っていた。五分程待つと、執事さんがお供を連れて呼びに来てくれ、樽も運んでくれた。


そして、領主との面会でき、商売の話となる。


「これが前に言っていた新しいお酒となります。一口飲んでみて評価をお聞かせ願えませんか?」

そう言ってショットグラス一杯程度のウイスキーと領主へと渡す。が流石に毒見役のメイドにそのままわたってしまう。そのメイドはウイスキーのアルコールの強さにむせてしまった。周りを取り囲んでいた騎士もそれには驚き、切りかかろうとかと逡巡している時にメイドが話す。


「すみません。あまりのお酒の強さにむせてしまいました。喉が焼けるように熱かったですがお水を飲むと収まりました。領主様。このお酒は今までのどのお酒よりも強いお酒です。飲むのであればそれを念頭にお飲みください」


シゲヒロはこうなるとは思っていなかったが、アルコールの強さはあらかじめ伝えておかなかったことを反省した。そうこうしているうちに領主様がウイスキーを飲むようだ。


「かぁぁぁぁ。本当に喉が焼けるようだな。だがうまい。香りもよい。でこれをいくらで売ろうと考えているのだ?」


「それを伺いにこちらへ参ったのです。私ではこの酒を造ることができても販路を持ちません。また、初めて作ったものだと今の商業ギルドでは値段をつけることは難しいでしょう。そこで領主様に値段を決めていただければと思いまして」


「そうか。それはすまなかったな。でこれを作るのにいかほど年月がかかるのだ?どうせ作成方法を聞いても答えてくれんのだ。それぐらい教えてくれてもよかろう?」


「おそらく三年ほどかかるかと。このお酒は長く保存すればするほど美味しくなるためこれはまだまだと言えますがそれでもそのくらいはかかります」


これにはその場にいた騎士や毒見をしたメイドも含めて全員が驚いた。この世界では熟成という概念がなくワインですら発酵すればすぐに飲んでしまうのだ。領主もこれには些か困った様子だった。


「この酒樽を儂に金貨百、いや金貨二百枚で売ってもらえんか。今度王都に行かねばならん。その時に陛下や他の貴族に味見させいくら払えるかを聞いてくる。それで値段を決めよう。二月ほど時間がかかるがよいか?」


「はい。構いません」


予想よりも事が大きくなりすぎたが資金不足を解決できたシゲヒロであった。

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