第3話-②
「そういえば先生は本好き?」
「好きだよ」
「どんなのが好き?」
「僕もオールジャンルで読む。そういえば、小さな図書室のようなものもここにある」
彼女の読む本にはいつも、県立図書館の印が押されている。
「図書室あるの?」
「と言っても、僕が集めた本だけだから、僕の趣味のものしかないけれどね」
「先生だけの図書室?」
「ちょっと大きな本棚みたいなものだ。医長に、こういうスペースがほしいと言ったら少し悩んだようだけど、OKをくれたよ」
「じゃあ百科辞典も置けるかしら」
「聞いてみるといい」
「でも生きている内に読み切れる自信がないわね。先生のお金で本を集めたの?」
「親に買ってもらった本もある。子供の頃のお小遣いなんてのは現金じゃなくほとんど本だったしね。でももう半分以上は、ちょっと医師たちの手伝いをして買ってもらったものばかりだ」
私もバイトすれば本買ってもらえるかな、と呟く。僕の本はどこまで増やせるだろう。
「先生のお気に入りは?」
何だろう。今まで読んできた大量の本を思い返す。
そして、思い当たった。
「夏目漱石の夢十夜は知っているかい?」
「ええ、一応」
「あれの第一夜が好きだ。読んだことはある?」
「ない。第三夜くらいだったか、子供を背負ってるやつは知ってるけど」
「そうか、なら貸そう。あの独特な静けさが好きなんだ」
「怖くない?」
「怖いのは苦手?」
「ほら、この病室で一人で寝るでしょう。子供を背負ってるやつ、地味に怖くて」
「僕もあれはじわじわと怖い。あれが一番怖く感じたな。少なくとも第一夜は怖くないよ」
そう言われると、僕も今夜寝られるだろうか。思い出すとなんだか背筋がぞわりとする。
「さて、今日も頭を使ったね。このくらいにしよう。明日は本を持ってくるよ」
「ありがとう。またね」
ゆっくり立ち上がる。本棚を探してみなくては。彼女に手を振って部屋を出た。
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