第4話-①

 今日は少々目眩がひどい。念のため薬を飲んで彼女の病室へ向かう。

「あ、功児先生。最近調子どうですか?」

 医師に話しかけられた。

「うん、今日は少し目眩がするけど、大丈夫だ」

「目眩ですか、薬は?」

「一応飲んだよ」

「働きすぎないでくださいね。そういえば、心音ちゃんとはどうですか?」

「うん、賢い子だね。小学生なのを忘れてしまう」

「とても賢い子なので先生と合うかなと思ったんですが、上手く行っているようでよかったです」

「楽しくやれているよ」

 今日は夢十夜の感想を聞いてみよう。

 医師と一言二言交わして別れた。にしても、先生と呼ばれることに慣れない。もしかすると、先生ではなく老師せんせいのつもりで言っているのだろうか。何にせよ先生と呼ばれるべきは医師の方だ。

 そう思いながら彼女の部屋のドアをノックする。

「はーい」

「やあ、こんにちは。体調はどう?」

「うん、大丈夫」

「それは良かった」

 椅子を出して僕も腰掛けた。どうやら今日は僕の方が疲れているらしい。昨夜本を読みすぎたのが祟ったようだ。

「君は小説を読んでいて眠れなくなることはない?」

「あるけど、強制的に寝かせられるもの」

「僕にもそういう係をつけた方がいいかな。いや、自分で管理しろと却下されるな」

「一度でいいから夜更かしなんてものもしてみたいわね」

 夜更かし、友達と放課後に買い食い、全力ダッシュ。なんてことないそれらが、心臓に疾患を持つ人間にとっては憧れになる。

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