第4話-②

「そういえば夢十夜は読んだ?」

「うん、綺麗な話だった。ちょっと切ないけど」

「そうだろう」

 僕の目がどこか遠くを見たのが分かったのだろうか。彼女が尋ねる。

「先生も、待ってるの?」

「ん?」

「女の人、待ってる?」

「……そうだね。百年待つと約束した」

 小学生なりに気を遣いつつもその人ことが気になるらしい。

「どんな人?」

「その人もこの病院の人だったよ」

「医師と患者のレンアイ?」

「僕は医者じゃない」

「あ、そっか。でも、なんにも言われなかったの?」

「ああ」

「この病院、先生に甘すぎるんじゃない?」

「長いこといるからね。なんだかんだ僕が一番長い」

「え、そうだったんだ。オツボネサマ?」

「それは女の人に使うんじゃないかな」

 少し笑う。

「……その人も、心臓の?」

「そうだった。僕らが一緒にいられる時間はあまり短くてね」

 そこで少しハッとする。

「もしかして、私の前の人って、」

「いいや、違う。僕がずっと若かった頃だ」

 そういえばあの彼女も、ここと同じようによく陽が入る部屋にいた。あの部屋はたしか、病院の拡張工事の時に取り壊されてしまったはずだ。

『あなたのおかげで夢十夜が好きになったわ。ねえ、私のこと、百年待っていてね』

 そう言った彼女を思い出す。

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