第1話-③
僕は黙って頷く。
「生まれる前から心拍数は高かった。生まれたのも奇跡だって。だから両親は、力強い鼓動に心を打たれて子供を心音と名付けた」
皮肉だとは思わなかったのかな、と笑う彼女の奥で、グラフが軽快なリズムを刻む。
「こんな身体じゃすぐに疲れるし、何にもできないというのにね」
「学校へは? 中学校には一度も行っていないのかい?」
「ん?」
彼女はことりと首を傾げる。
「先生、カルテちゃんと読んでないでしょう。私、十二歳になったばかりよ。まだ小学生」
びっくりしてカルテを見る。たしかに彼女の誕生日はついこの前だった。
「本当だ、確認不足ですまない」
「いいよ。動物も、人間で言えば何歳、ってあるじゃない。私も寿命が短い分早く老いていくの」
中学生と言われれば、そう思おうと思えば思えなくもない、と僕は思った。実際の見た目は大人びた高校生くらいで、化粧をすれば二十代、さらには三十代とも見えそうだ。それでいながら、表情はどこか幼い。
「ああそれで学校ね。もちろん籍は置いてるけど全然行けてない。どうせすぐ死んじゃうし、ある程度は教科書読んでわかってるから」
反応に苦しむ。あまりに死が身近だと達観してしまうのだろう。死というものが遥か遠くに感じられる僕には、彼女にかけられる言葉が何一つ見つからない。
彼女が少し笑った。
「困らせちゃったね」
「……いや、僕には何を言ってくれても構わない。僕がいい反応をできるかは期待しないでほしいが」
「そこは努力する、とかじゃないの?」
「そりゃあ努力はするけど、いつだって君の望む反応をできるなんてことは当然ないさ」
彼女はぱちぱちと瞬いた。それからまた一つ頷く。
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