第2話-③
「先生、勉強とは違うけど一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「どうして小説は、病気の主人公とか恋人とかが多いんだろう」
ふむふむ、何々深い質問だ。
「そうだな、じゃあ逆で考えてみよう。全く、一つも何不自由なく暮らしている主人公がいたとして、そのずっと幸せな様子を描いているだけの小説があったとしたら?」
「面白くないね」
「ただずっと辛いだけの人生を見せられるのも面白くないね。ずっと一、ずっと百、ずっとマイナス百、とか平坦なものは面白味に欠ける。一から百、マイナス百から十、百からマイナス百から千の方がよっぽど面白く感じる」
ぱっちりと目を開いて彼女は頷いた。こくり、と頷く様はやはりどこか幼い。
「その変化を付けるためのものが、事件だったり、背が低いとか何かしらのハンデだったり、病気だったりする。登場人物が何かに立ち向かおう、乗り越えようとする様子に人は面白味を感じるんだろうね」
「でも、誰も病気になんかなりたくないでしょ。事件も事故も起きてほしくない。ハンデもいらない。誰だって、そう思うでしょ。幸せは、つまらないの? 不幸せな時期がなきゃ、人生も面白くないの?」
病気の主人公や登場人物が出て来る小説でも読んだのかもしれない。それで思うことがあったのだろう。
「ずっと幸せでいるのがつまらないわけがない。それに飽きて、今ある幸せが見えなくなってしまったらまた別だろうけど。幸せでいるのが一番だ。でも、困難に立ち向かえば人が強くなれるのもまた事実だ。たとえそれが物語のように劇的でなくても」
今までの人生で出会って来た人たちを思い出す。うん、ずっと幸せである方がいいに決まっている。 彼女はまだ少し考えているようだった。
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