第2話-②

「仮にフィクションだとしても、自分の世界を広げるのはとても素晴らしいことだ。普通に生きていては自分では経験できないこと、知れないことも見られるからね。その点きっと、君の世界は他の同年代の子たちより広い」

「フィクション、そうね。本物じゃない。私が小説を読み漁り出した頃、お父さんお母さんはちょっと躊躇ってた。小説の中の“普通”を目にしたら、自分の状況にがっかりするんじゃないかって。確かにそう思うこともある。フィクションの劇的な愛物語より、きっとちょっとしたくだらないような小さい恋の方がずっと楽しいんだろうし。でも今私にそんなことはできない。だから、そうね、生まれ変わったらこんなことをしよう、ってことを探してるんだって思って読むようにしてる」

 自分の疾患についてかなりきちんと考えを整理しているらしい。それはやはり小説によって培われたものだろう。

 それから恐らく、彼女の口調にどうにも定まりがないのも、様々な小説を読んでいるからではなかろうか。

「君は来世を信じる?」

「どうだろう。でも、来世だろうと天国だろうと復活だろうと、いつか元気な状態で生きられたらとは思うよ。私にはそれを願う権利があってもいいと思わない?」

「そうだね。結局、死んでどうなるのかなんて、詳しいことは生きている人には誰にもわからない」

 死によってできる隔たりはあまりに大きい。それでも皆、死んでしまった誰かにまた会いたい、いつまでも幸せに生きていたいと思うから、来世や天国や復活といったものを信じようとしているのだと思う。

 彼女自身、それを真剣に信じるというより、願望を述べたにすぎないのだろう。

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