第2話-①

「本が好きなんだね」

 病室に入って来た僕を見て彼女が小説を閉じた。

 この病室はよく陽が入る。

「そうね」

「面白いところを邪魔した?」

「大丈夫、これはそこまで面白くないから」

 あっさりと、と思ってその本を見ると、なんと芥川龍之介だ。

「読めるのかい?」

 ついそう尋ねる。いかん、機嫌を損ねてしまう。彼女はフレンドリーだが、出会ってたったの二回で嫌な思いをさせてはいけない。

「失礼ね」

「いや、すまない。僕でも難しく感じる部分があるから、つい。難しい漢字も多いんじゃないかい?」

「辞書で調べるの」

 彼女が目をやったベッド脇のテーブルには、ぶ厚い辞書だけでなく他にも大量の小説が積まれている。文豪からよく見知った有名な作家、マイナーそうなもの、ライトノベル、児童文学など。随分幅広い。

「やることもないし、時間はたっぷりあるでしょう。いや、やれることはないし私の時間は少ないけどね。……ああ、また困らせちゃった。ごめんね」

「謝るのはよしてくれ。いいと言ったじゃないか」

「そうだった。それでね、自分の世界を広げたくていろんな小説を読んでるの。小説さえあればどこへだって行ける。なんだってできる。だから、小説が好き」

 ふんふん、と頷く。僕も小説は好きだ。

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