第4話-④

「どうやって恋仲になったの? 先生が恋してるなんて、想像もつかないや」

「全くだね。僕にも若い時代があったんだよ。彼女は当時僕と同じくらいの歳で、小説が好きだった。彼女もまた、あまり活動できなかったからね。僕が小説を集めているのを知って、本を貸してと言って来た。そしてよく本を貸すようになって、感想を交わすようになって……」

 なんだか気恥かしい。こういう時は小学生の好奇心旺盛な目でらんらんと見てくる。

「まあ、あとは、成り行きだ。結婚なんてものも考えてみたけれど、彼女に残された時間は少なかったし、僕の人生はまだまだこれからだった。僕らは百年の契りをして、彼女の死をもって別れたよ」

「悲しくない?」

「そりゃ悲しかったさ。でも時が経つと百年後どこかでどうにかして再会することの方に目が行くようになった」

 別れが来ることは初めからわかっていた。ここは病院と言いながらホスピスのようなものだ。 治療法が見つかっていなかったり、もう手遅れだったり。

 彼女もその一人で、別れが来るということはわかっていた。それでも恋なんぞに落ちてしまったのは、双方共にやはり若かったからとしか言えない。傷付くとわかっていて、深く傷付いた。

 しかしそれもまた、時の流れが癒してくれるものだ。

「先生は、切り変えが早いのね」

 おや、どこか言葉に棘がある。

「何度も別れを経験するとそうなってしまうのかもしれない。でも別れは何度経験しても辛いし、 その誰も忘れちゃいない」

「私のことも忘れない?」

 ああ、そういうことか。

「もちろん」

「約束よ。もし忘れたら百年後、先生に背負われに来るからね」

 夢十夜の第三夜を思い出して笑う。それから神妙な表情をつくって頷いた。

「必ず忘れないとここに固く誓おう」

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