第33話 31~54周目

  「は、ははは、あはははははは」


 意識を取り戻した私は笑い声をあげる。 もうおかしくてたまらなかった。

 自分がどうしようもなく詰んでいる。 そう自覚すると笑い声が後から後から口からどろどろと流れ出す。

 唐突に笑い出したクラスメイトが私の方を見るけど構わずに私は笑い続ける。


 その直後に座間達の不在で更に車内は混乱し、うるさい私に構っていられなかったのか楢木に黙らされるまで私は笑い続けた。

 ホテルに到着した後も私は特に何かをする気力も湧かなかったのでそのまま部屋に上がり、腫物扱いされている状況にも構わずぼーっと無駄に時間を潰し――当然のように鬼に叩き潰された。



 三十二周目


 もう何もかもがどうでも良くなった。

 時間を潰す事さえも面倒になったのでホテルの屋上から飛び降りて自殺した。


 三十三周目


 前回と同様に飛び降りたけど落ちた体勢が良くなかったのか即死せずに少しの間、苦しんで死んだ。

 

 三十四周目~四十周目


 失敗を活かして頭から落ちるように意識して自殺を繰り返した。


 四十一周目


 自殺にも飽きて来たので何か違う事をしようと思い立つ。

 厨房から包丁を持ちだしてバスガイドやクラスメイトを殺した。

 主に私の足を引っ張った奴らを狙って殺し続ける。 特に面白くはなかったけど、少しだけ胸がすっとした。 六人殺した辺りで時間切れとなって鬼に頭を叩き割られて終わる。


 四十二周目


 そうだ! タイムアタックをしよう!

 唐突に名案が閃いた私は時間までにどれだけクラスメイトを殺せるかにチャレンジする事にした。

 実行に移したが十人で時間切れとなった。


 四十三~五十周目


 やっている内に段々とコツが掴めてきた。

 取りあえず腹を刺せば動きを鈍くでき、首を裂けば簡単に殺せる。 次に殺す順番だ。

 スコアを稼ぐ為には簡単に仕留められる獲物を優先するべきだ。 最初はバスガイド。

 理由は単純にこいつは一人部屋だからだ。 尋ねてそのまま刺し殺せばいい。


 次に同室の文江達。 一番運動神経のいい文江を殺せれば後は楽だ。

 多代、乗り物酔いで不調の星華の順で殺せばなんの問題もない。 コツはとにかく文江をどれだけ早く仕留められるかだ。 突然の事態と理不尽に絶望を浮かべる彼女達を見ると気分が少しだけ良くなる。


 私は死んでもその絶望を引き摺り続けるのだ。 死ねば終わるお前達が羨ましい。

 次に仕留めるのは退屈に耐えきれずに部屋から出てくる男子連中だ。

 座間のように早い段階で動く奴はいないので、出てきた順番に始末していけばいい。


 鬼と遭遇した時点で時間切れなので、だいたい三時間半ぐらいで全滅させればクリアだ。

 壁は薄いので同じフロア内で悲鳴を上げさせると他が飛んでくるので可能な限り静かに始末しなければならない。 順番としてはバスガイド、文江達、外に出てくる連中。


 後は順番に部屋を訪ねて殺せばいい。 悲鳴を上げさせずに素早く殺す事が難しく、凶器に使用している包丁も骨に当たって欠けたり血で切れ味が落ちたりと失敗も多かった。

 最初の五周は悲鳴を上げられたり抵抗されたりと中々スコアが稼げなかったけど五十周目ではクリアが見えて来ていた。 何故なら何もしなければ全員が全く同じ行動を取るので、改善点を次回に反映させれば同じ失敗はしない。


 そして五十三周目――目の前でこそこそと逃げようとしていた宇田津という男子を始末した。

 血溜まりが床にゆっくりと広がる。 蹴り転がしてちゃんと死んだ事を確認し、脳裏でクラスの名簿を確認。 うん、これで全員だ。


 クラスメイトを皆殺しにしてちょっとした達成感が胸に広がったけどそれだけだった。

 スマホで時間を確認するとそろそろ鬼が来る頃合いだ。

 それなりの難事を成し遂げはしたけど、自己満足以上の意味を持たないので虚しさだけが木霊する。


 ……くだらない。


 やっている最中はそれなりに夢中になれはしたけど、終わってみると一気に冷めた。

 次は何をしよう。 私はフロントに降りて鬼に頭を叩き割られながらそう考えた。


 五十四周目


 何か思いつくまでまた屋上から飛び降りるかと考えていると変化があった。

 目次がいなくなったのだ。 それを見て私は心底から羨ましいと思った。

 あぁ、アイツはこの地獄から一抜け出来たのだ。 それがどういう形であったとしても羨ましくて仕方がない。 どうやればここから解放されるのだろうか?


 振り返るとトンネルの出口が徐々に遠ざかって行く。 あそこを抜けられれば助かるのに……。

 そんな事をぼんやりと考えてふっとある考えが浮ぶ。


 「――あ」

 

 私は思わずそう呟いた。

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