第13話 11周目②

 コンビニに到着し、人がいないと教えると座間はそりゃ都合がいいと前の時と同じように使いそうなものを鞄に放り込む。 手を動かしながら座間は続きを話す。


 「消えて帰ってきた連中はどいつもこいつも恐怖でおかしくなったらしく、具体的に何が起こったのかって話ははっきりしなかったんだが、断片的には喋ったそうだ。 ――で、そいつらが何を言っていたのかっていうと霧の街で化け物を見たんだとさ」

 

 それを聞いて思わず体が震える。 驚きもそうだけど出る方法が確実にあるといった希望からだ。

 

 「そ、それで! その人達はどうやって戻れたの!?」

 

 座間は小さく肩を竦める。


 「期待に沿えずに悪いが、その辺は不明だ。 一応、聞きはしたらしいんだが、怪談物でよくある「逃げ回っていたら気が付けば出られた」って感じだったらしい」

 

 肝心な部分は不明のままだったけど、それでも出られなくはないと分かっただけでも収穫だった。

 次に浮かぶのは座間に対する疑問だ。


 「どうしてこの街の事に詳しいの?」

 

 流石に知り過ぎていると思って疑問をぶつけてみると座間は溜息を吐いて肩を落とす。


 「――実を言うとな。 俺、この旅行に来るつもりはなかったんだ」

 「来るつもりはなかった?」

 「あぁ、しおり見りゃ分かるだろ? 学年主任のアホがやらかした所為で旅費ががっつり減ったお陰でこんな寂れた街で大半が山歩きとかいうしょうもないプランだ。 これのどこに楽しみを見出せって言うんだよ」


 全面的に同意できる話だったので特に口は挟まない。

 本音を言うなら私もサボりたかった。 いや、こうなると分かっていたら確実に来なかっただろう。


 「単純に金がねぇからくっそ安いこの街が旅行先に選ばれたってのは分かる。 知ってるか? さっきのホテルな。 他所に比べて宿泊費がべらぼうに安いんだとさ。 使われた金は最終的には取り立てるんだろうが、間に合わないって判断した学園は取りあえず体裁だけでもとこの格安プランに飛びついたって訳だ」


 そこまで話して座間は更に肩を落とした。


 「俺の連れの一人がこういった怪奇現象を追っかけるのが大好きな変態でな。 写真やらを撮ってきてくれと頼まれたんだ。 あぁ、ちなみにさっきの話は全部そいつから聞いた話だから、これ以上は出てこないぞ。 ――で、チラつかされたバイト代に目が眩んだ俺はこうして来たくもない修学旅行に参加してみれば街は誰もいない上、濃霧で視界が利かないと聞いていたヤバい話と符合する点が多かったから逃げ支度をしようとコンビニに行こうとしたって訳だ」


 話し終わったところで一通りの物色は終えたのか中身の詰まった鞄を持ち上げる。


 「さて、俺の話は終わりだが、遥香は俺に何をして欲しいんだ?」

 「この街から出るのに協力してほしい」

 「……協力ねぇ。 実際、俺の持ってる情報はさっきので全部だぞ?」

 「それでもいい。 一人じゃ、手詰まりなの。 だから知恵を貸してほしい。 ――座間はこの先、どうするつもりだった?」

 「ここを出たら真っ直ぐにトンネルを目指すつもりだったが――その様子だと駄目そうだな」

 「横転したバスで塞がってる」

 「……寧ろ、俺がお前に助けを求める場面だな。 とりあえずだが、ここは大丈夫なのか?」

 

 スマホの時刻表示を確認するとそろそろ十八時を越えようとしていた。

 

 「二十時前ぐらいまでなら大丈夫」

 「つまり、それ以降は大丈夫じゃないと。 分かった。 取りあえず移動しながら詳しく聞くか」

 



 コンビニを出て街中を歩くけど移動は気を付けた方がいい。

 タイミング的にガラガラ音を鳴らす何かと出くわす頃だ。


 「――なるほど。 コンビニは兒玉が化け物を引き連れて来るから使えないと」

 「えぇ、でもあの怪物は一体何なのか……」

 「妖怪の類じゃないかって話は結構あるな」

 「じゃあ、ガラガラ音を立てて人を轢き殺す妖怪に心当たりはあるの?」

 

 座間は少し考えるように沈黙。


 「特徴的に火車かしゃじゃないか。 燃える車輪の化け物だ」

 「そうなの?」

 「見てねぇから知らねーよ。 特徴的に近いのはそれだって話なだけだ」

  

 暫定的にでも名前が付くのは分かり易い。 いつまでも正体不明だと不気味なので、名前が付けば気持ち的に多少は恐ろしさが薄れる。 例の車輪は今後、火車と呼ぼう。


 「街中にその火車が走り回っているから気を付けて」

 「……マジかよ。 どうする? 行き当たりばったりじゃ無理なのはお前の様子を見れば分かる。 出くわした化け物の詳細も聞きたいから一度どこかで腰を落ち着けるか」

 「分かった。 何処かの店に入る?」

 「いや、マンションとか比較的背の高い建物がいいな。 そいつら結構デカいんだろ? だったら廊下が狭そうな所なら入って来られても多少は時間が稼げるだろ」


 方針が決まれば後は動き出すだけだ。 目当ての建物は早い段階で見つかった。

 四階建てのマンション。 位置的にはやや西側で、霧がなければ窓からトンネルが見えそうな感じだった。 

 空からも襲って来る可能性があるので四階は選ばずに三階へ向かう。 片端からドアノブを捻って試したらいくつかの部屋が開いたので階段に近い位置にある部屋へと入る。


 何が起こるか分からないので土足で上がり込む。 正直、靴を脱がない事に抵抗はあったけど、命には代えられないので部屋の中へ。 気休めかもしれないけど念の為に施錠はしておく。


 「――それにしても本当に訳が分からねぇな。 電気も来てるし冷蔵庫にも食材が手つかずで残っている。 見ろよ、ヨーグルトとか賞味期限、全然後だぞ」

 「住んでいる人だけがそのまま消えたって感じね」

 「あぁ、洗濯物も取り込んだままだったしマジで人だけ消えてるな」


 座間はさてと呟くと近くのソファに座る。 私も少し離れた所にあった椅子に座った。

 

 「とりあえずお前が死にまくっている事は聞いてる。 あんまり思い出したくないだろうが、俺もどんな化け物が出てくるのかを把握しておきたいから何処でやられたのか、どんな手段で殺しに来るのか。 その辺を詳しく頼む」

 「分かった。 まずは――」


 私は脳裏にこびり付いて離れない繰り返す死を順番に座間に語って聞かせた。

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