第7話 7周目
気が付けばお馴染みとなったバスの中。
首を撫でながら私は大きな溜息を吐く。 恐らく何かに首を食い千切られた。
その後に頭を噛み砕かれたであろう事は容易に想像できたので、溜息しか出てこない。
これで東側もアウトだ。 残りの北側もこの調子だと怪しい。
東、西、南と三方向に何かが居るのは間違いなく、下手に足を踏み入れると即死する。
残りは線路沿いだけど、街中にいるあのガラガラと音を立てる何かに見つからずに行ける自信がなかった。
思わず頭を抱える。 ここまで分かり易い八方塞がりはこれまでの人生で初だった。
どうすればいい。 どうすれば逃げ切れるんだろう。
明らかに逃げ場がない。 このまま私は永遠に夜を越える事なく無限に殺され続けるのだろうか?
そんな未来を想像するだけで恐怖と絶望に体が震える。 せめて夜を越える事だけでも――そこまで考えてふと思いついた。 そうだ、逃げるのではなくやり過ごす方向で考えるべきだ。
何処かに隠れよう。 ホテルに着いたら施錠できる場所を探して隠れる。 部屋は難しい。 他のクラスメイトが同じフロアにいる上、何かが上がって来る事が確定しているので危険だからだ。
あいつらが近寄らなさそうで隠れられる場所を探して立て籠もろう。
考えれば考える程、名案に思えて来た。 方針が決まればその方向で考えを膨らませる事が出来る。
まずは隠れる場所だ。 その辺の民家? さっき自転車を借りた家でもいいけど、窓を割って入らなければならない以上、施錠の問題で不安が残るので別の場所にした方がいい。
目安としては一晩――要は朝までだ。 根拠としてはホテルまで来れている事があった。
つまりあいつ等はこの時間は隠れているか活動できない理由がある。
もしかしたら夜行性かもしれないので日が昇れば消えるかもしれないし、この霧も晴れるかもしれない。 そうなればこの街からの脱出もかなり楽になるはずだ。
人間、一晩ぐらい飲まず食わずでも死なないのでそこまで危険視していないけど、万が一朝になっても状況が変わらなかった場合は確保する必要がある。
以上を踏まえると候補として望ましいのはコンビニだ。 奥なら隠れられるし施錠できる部屋もある。
ついでに食料や各種雑貨も揃っているので、必要な物資を調達するにも何かと都合がいい。
よし、到着したらコンビニに行って奥で隠れていよう。
監視カメラもあるだろうし、立て籠もる場所としてはベストかもしれない。
私は内心で大きく頷くと脳裏でどう動くかを考えつつ、バスが目的地へと到着するのを待ち続けた。
到着し、荷物を部屋においてから私は早々にホテルを出てコンビニへと向かう。
文江達に説明して一緒に避難しようかと考えたけど、今の私にはそんな心の余裕もなく、自分が助かる事だけで頭がいっぱいだった。
コンビニに入るとそのまま奥へ入る。 当然ながら人はいない。
奥にはスタッフルームらしき部屋と監視カメラの映像をモニターする端末。
見た感じ施錠も出来そうだし、店内の様子も確認できる。 見立て通り、立て籠もるには最適な場所だ。
後は朝が来るまでここで時間を潰せばいい。
私は店から適当に食料を持ち出して監視カメラの映像を眺めつつじっと待つ。
朝まで何もないと思いたいけど最初の変化は意外と早かった。 電子音、私が入った時にも鳴ったので誰かが来店した時の為の物である事は分かっている。 モニターの映像にも変化があった。
そこに映っていたのは――座間?
クラスメイトの座間だった。 そういえばこいつも早い段階でホテルから出ていたなと今更ながらに思い出す。 座間はキョロキョロと挙動不審な態度を取り、すいませーんと大声を上げる。
悪いけど返事をする気はないので黙って息を殺して様子を窺う。
店員に声をかけるにしては買い物をする気配がない。 あいつは何を考えているんだ?
しばらくの間、座間は店員を呼び続けていたけど、誰も居ないと判断したのか叫ぶのを止めた。
カメラ越しに見える座間の表情は緊張しているのかかなり強張っていた。
その様子に私は不審なものを感じたけど、それは正しかったようだ。 座間は覚悟を決めたように大きく頷くと食料や飲料を鞄に詰め込み始めた。 突然の行動に思わず目を見開く。
……は? 何やってるの?
私が驚いている間に座間はさっさと盗るものを盗ってバタバタと店から走り去っていった。
信じられない。 あいつ万引きした。 それも豪快に。
私と違って事情を知らないはずなのに――違う。 あいつもしかして何かを知っている?
一瞬、追いかけようかと思ったけど今から行ってもこの霧でどっちに行ったかわからない。
それにとスマホで時刻を確認すると街はあのガラガラと音を出す何かがうろついている頃だ。
下手に出て行けば狙われかねない。 気にはなるけど、ここで立て籠もってやり過ごせばどうでもよくなる。 そう自分に言い聞かせて動かずに留まる事を選択。
大丈夫。 私は助かる。 大丈夫。 そう言い聞かせて私は祈るように目を閉じた。
あれから時間が経過しスマホの時刻表示は19:50となっており、そろそろホテルが襲われるであろう時間帯だ。 結構な騒ぎが起こっていたはずだけど驚く程に静かだった。
私は見つかりませんようにと祈りながら部屋の隅で小さくなる。 痛いぐらいの静寂が続く。
どれだけそうしていたのか、しばらくするとドタドタと乱暴な足音が響いた。
誰かが近づいて来たのはすぐに分かり、思わず身を固くする。
音からして人間だと思う。 怪物ならもっと違った音が出るはずだからだ。
それは正しく、勢いよく誰かが飛び込んで来た。 服装、体格から見間違いようもなく男子。
カメラに映る範囲に入った時点で判別もついた。
正直、大声を出して威圧する傾向にある男子なので嫌いな部類に入る。
兒玉は体のあちこちから血を流しており、腕は変な方向に曲がって肘から下がブラブラと不自然に揺れている。
「誰か! 誰かいませんか! 助けて! 警察を呼んでください!」
それを見て最初に思った事はなんて事をしてくれたんだこの馬鹿は、だ。
負傷を見れば襲われて逃げて来たのは明らかで、しきりに後ろを振り返っている時点で追いかけられていて近くまで迫って来ている――つまりは余計な奴を連れて来たのだ。
モニターの向こうで叫んでいる兒玉の背後から巨大な棒のようなものが飛んで来てコンビニの入り口を破壊しての上半身を押し潰した。 私はこの時点でここはもう駄目だと判断。
そっと裏口から外に出ようと移動する。 音を立てないようにそっと扉を開けて出たと同時にブンと風を切る音がして後頭部に衝撃。 意識がぷっつりと途絶えた。
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