第10話 9周目
そろそろ見るのがうんざりを通り越して苦痛になりつつあるバスの車内で私は大きな溜息を吐いて項垂れる。 屋上も駄目だった。
一体、なんだったのだろうあのカラスみたいな存在は。 しかも棒状の凶器を投げつけて来る点からもホテル内を歩き回っている人型と同様に殺意の高さが窺える。
どいつもこいつも積極的に殺しに来るので遭遇どころか気配を悟られただけで終わりだ。
ここまで来ると何をやっても駄目なような諦めのような気持ちが湧いてくるけど、そうなれば無限に殺される未来が待っている以上はやるしかない。
折れそうな心を奮い立たせて前回の失敗を振り返る。 収穫としては文江達はやり方次第で信じて貰う事は可能だけど、手間がかかるので連れて逃げるのは難しい。
屋上はホテル内での騒動をやり過ごすには使えるけど長居すると殺される。
ただ、隠れた場合の生存時間は他と比べるとかなり長いので選択自体は悪くなかったのかもしれない。
今度は地下を試してみるべきか。 そろそろ死亡回数が二桁に突入しそうになっている事もあってだんだんと動じなくなった自身に驚きながらも次の方針を練る。
隠れる場合は地下だけど、そろそろ一つの手段に固執するのは危険だ。
今回、失敗した場合、逃げる方向で考えた方がいいんだけど、もう逃げ場所が北か線路の二択しか残っていない。 どちらを選ぶにしても不安が多いルートだ。
北はそもそも遠いので移動に時間がかかる事。 自転車を利用しても街中を移動するアレに見つかる可能性が高い。 そうなると比較的ではあるけど距離の近い線路の方がマシか。
再度、溜息を吐く。 これ以上は考えても仕方がないので取りあえず地下に隠れてやり過ごせるか試してみよう。 私はやや冷めた思考でそんな結論に至った。
到着後、フロントにある鍵束を掴んで地下へと降りる。
早めに降りたのは部屋の配置は分かっても具体的に何があるのかが良く分からなかったからだ。
無駄に部屋が多いので隠れられるのに都合がいい場所を確認する。
最終的に毛布や非常食の類が集積されている災害時に利用するであろう倉庫を選んだ。
隠れる場所を決めたので後は文江達をと考えたけど、スマホの時刻表示を確認するとそろそろ十九時が近かった事もあって判断に迷う。 地下を調べるのに思った以上に時間がかかってしまった。 このタイミングで上に戻ると説得して間に合うかが非常に怪しい。 考えたけど、地下に連れ出す事自体が無理筋だ。
しばらく悩んだ――いや、私は悩む振りをしたのだ。 どの選択が一番合理的かつ確実なのかは最初から分かっている。 だから、私は内心で文江達に小さく謝ってから倉庫の片隅で隠れる事にした。
ここは屋上に比べれば快適だった。 毛布に食料、水もあったからだ。
スマホの時刻表示はそろそろ二十時を越える頃だった。 耳を澄ますと微かに何かが聞こえたような気がするけど、聞こえない振りだ。 私は何も知らない何も聞こえない。
何があるのか分からないので電気も付けずに部屋の隅で小さくなる。
どうせ後で勝手に消えるんだから意識する必要はない。 食事も簡単に済ませてひたすらに蹲ってこの状況をやり過ごす。 朝までだ、大体朝の六時、早朝を目安にここに引き籠る。
日が昇っているであろうタイミングでここから逃げるのだ。 どこかで何かが落ちるような音が響く。
スマホを確認するとタイミング的に恐らくだけど電源が落ちたのだろう。
知らないし関係ない。 嵐が通り過ぎるまでここで静かにしておく。
何もしていないとついつい余計な事を考えてしまう。
文江達は大丈夫だろうか? いや、大丈夫じゃない。 今頃は間違いなく殺されている。
これまで自分の事だけで精一杯だったので、考える事が出来なかったけど私は友達を何度も見捨てているのだ。 考えれば考えるだけ罪悪感が膨れ上がるが内心で言い訳を並べてどうにかごまかす。
だって私は記憶を持ち越すけど他の皆は何も覚えてないじゃない。
この恐怖や絶望を何度も味わっているのも私だけ。 あまりにも不公平だった。
彼女達の認識はどうなっているのかは分からないし、私の記憶は連続しているけど実際にどうなっているのかがさっぱり分からない。 精神だけ時間を逆行するタイムリープって奴なの?
そんな便利な能力が私に備わっているのなら何故、今までに――いや、もしかして死をトリガーにしているから気付かなかった? 仮にそうだとしたらどうして毎回トンネルを通る時に戻されるのかが分からない。 戻れる時間に制限があるにしても同じタイミングに戻されるのは不可解だ。
やっぱり素直にこの土地自体に何かしらの作用が働いたと結論付けた方が自然だった。
大きく溜息を吐く。 仮にそうだったとしても何の慰めにもならないからだ。
それでも文江達を見捨てた事実から目を逸らすべく私は違う事を考え――っ!?
ビクリと肩を震わせる。
少し離れた所でドスドスと重たい足音が連続して響き真っ直ぐに近づいて来た。
何で!? どうして!? パニックになりそうな気持ちを落ち着けて冷静になるべく深呼吸。
慌てて逃げ出してもここは袋小路に近い。 気付かれていないと祈るしかな――私の祈りは目の前でドアが破壊されたと同時に砕け散った。 同時にあぁ、これはどうしようもないと諦めに似た気持ちが湧き上がる。 せめて姿だけでもはっきり見てやろうとスマホのライトを持ち上げると同時に何かが振り下ろされて脳天に衝撃。 ぐしゃりと何かが砕け散って私の意識も同様にバラバラになった。
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