第30話 22周目

 頭数を揃えて引っ張り出す所まではどうにかなかった。

 後はルートの選定と誘導の方法か。

 手間をかけて無駄に試行回数を増やすより、先に確実性の高いルートを見つける方が先だ。


 私は今回を完全に捨て回として火車を突破する為の策を練るのに費やす事にした。

 バスが目的地へと到着し、私は早々に街へと向かう。

 移動しながら火車について脳裏で整理する。


 まずは音に反応し、目標を定めると真っ直ぐに轢き殺しに現れるので捕捉されたらまず助からない。

 鎌鼬のように人間を識別しているのかは不明だけど、形状から小回りが利かない事もあって取りあえず音には反応してから判断するのかもしれない。


 数は一体。 これは今までの経験から間違いないと思う。

 少なくとも複数に襲われた事がないから確定と見ていい。

 次は移動範囲。 反応の速さから比較的近い位置を走り回っていると思われる。


 コンビニより手前では襲われていないのでホテルの傍までは来ない?

 誘導する手段自体は確立しているので、自転車で距離を稼いでコンビニでキッチンタイマーを仕入れればどうにでもなる。 後は誘導してどれだけ距離を稼げるかにかかっていた。


 火車を遠ざけてもクラスメイトを引っ張り出す事に時間をかけ過ぎるのもまずい。

 つまりクラスメイトを無傷で南のハイキングコースまで連れて行くには、火車の誘導、バスガイドの殺害からクラスメイトの説得と移動をスムーズに行わなければならない。


 特に火車の誘導とクラスメイトを連れての移動のタイミングを合わせるのは至難だ。

 流れとしてまずは自転車を調達してコンビニへ移動、それからアラームのセット。

 その後、バスガイドに放送させた後、殺害して簡単な証拠隠滅。 降りてきた目次達の説得と誘導。


 タイミングとしては街に出た――要は火車のテリトリーに入ったタイミングで仕掛けが動くようにしなければならない。 やる事が多すぎる。

 こうなると座間が居なくなった事がストレートに響く。 あいつがいれば仕掛けのセットとクラスメイトの説得を並行して行い、タイミングを合わせる事も比較的簡単だ。


 ……やっぱり一人で全てを賄うのは現実的じゃない。


 そう考えると協力者を調達する必要がある。

 候補は文江達と目次か。 過程にバスガイドの殺害を噛ませる関係で事情を話して協力させるのは難しい。

 なら今回はバスガイドの殺害を省略して文江達に事情を説明して協力を仰ぐ方向を試す?

 どうせ今回は捨てるつもりだ。 失敗しても割り切れる。 駄目で元々、アラームの設置位置を決めたらホテルに戻って話をしよう。 そう考えた私はホテルへ戻るべく行動を急いだ。

 

  


 「……その話を信じろって?」


 目次を呼び出して事情を説明したけど、反応は悪かった。

 座間達が消えた事もあって頭から否定はしなかったけど、妖怪や死に戻りに関しては懐疑的だ。

 

 「それで? 俺にどうしろって言うんだ?」

 「協力して欲しい。 具体的にはクラスメイトの説得を。 団結しないとここから出るのは無理だから」

 

 説明を求める目次に私は脱出プランと妖怪の危険性を要点だけかいつまんで話す。

 特に妖怪の危険性は強調した。 あまり時間はかけてられないので可能な限り圧縮してだ。

 

 「遥香さんの言いたい事は分かったよ。 つまりは外にその妖怪がうろついてて放っておくとここまで踏み込んできて俺達は皆殺しにされる。 それをどうにかする為にクラスで団結して街から出よう。 ――で、それを知っている理由は死ぬとここに来る直前に戻されて、座間達はその過程で消えた」


 半信半疑ではあったけど目次はしっかりと話は聞いてくれてはいた。

 問題は座間と違って前知識がないから、信用させる為の決め手に欠ける。

 

 「嘘だと思うならホテルから出て適当に叫んでみれば? 火車っていう車輪の化け物が即座に轢き殺しに来るから」

 「随分と具体的だね」

 「私があいつに何回轢き殺されたと思ってるの?」

 「わ、分かった。 悪かったよ」


 口調を強くすると目次が少し怯えたような表情を浮かべた。

 

 「俺としては半信半疑だけど、この状況が普通じゃない事も何となくだけど理解はしてる。 協力するのもやぶさかじゃない。 ただ、クラスの皆を動かすのは難しいと思う。 いや、時間をかけて説得すれば行けると――あぁ、いや、難しいか。 バスガイドさんが止めに入るな」


 その点は私も同意見だった。 あの女は仕事とはいえやりたくもない子守という責任を負わされているのだ。 問題になるような行動はまずとれない。

 私が動かそうとすれば間違いなく妨害に入るだろう。 考えれば考える程、あの女は殺しておいた方がいい。


 問題はそれをやってしまうとクラスメイトの支持を得る事が難しくなる事だ。

 前回の方法だと引っ張れても火車への対策が取れずに詰む。

 考えれば考えるほどに出口なんてないんじゃないかと絶望したくなる。


 それでも私は諦める事を許容できない。 だからやれる事をやるだけだ。

 スマホの時刻表示を確認する。 そろそろ鬼がこっちに向かって来る頃合いだろう。

 時間切れだ。 私は見切りを付けて踵を返す。


 「分かった。 もういい。 無駄だと思うけど忠告しとく。 もう三十分もしない内に鬼がここに来るから逃げた方がいい」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 遥香さん! 詳しい話を――」

 「もう充分にした。 その上でのあんたの結論が「難しい」でしょ? 私は協力するかしないかの答えしか求めていないのに時間ばっかり浪費する奴に用はないわ」


 やはりクラスメイトへの協力は現実的じゃない。

 誘導する方向が最も望ましいと分かっただけでも収穫だ。

 尚も呼びかける目次を無視して私はホテルを後にした。 霧の街を歩いていると目次が追いかけて来た。


 「何? まだ何か用事?」

 「いや、急すぎて頭が追いつかないんだ。 もっと詳しく話を――」

 「私の話を聞いていなかったの? その時間がないから結論を出せと言ったのよ」

 「そうだけどでも――と、とにかく戻って皆と話を……」

 「さっき話したと思うけどここにいていいの?」

 「どういう事?」

 「火車が出るって言ったよね?」

 「あぁ、聞いた。 なら何で遥香さんはここに来たんだ?」

 「今回、無理だから次へ行く為だけど?」


 目次が目を見開くのと同時に遠くからガラガラと音が鳴り――私と目次は仲良く潰された。

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