キノコ、好きですけど


 サラマンデル。


 それは、森林ダンジョンの裏ボスと言われている大型モンスターです。

 表皮が硬く、並大抵の刃物は通らないでしょう。


 その大きな口から吹き出す炎も、下手したら冒険者の命を脅かします。

 ダンジョンとは、死との隣り合わせ。そんな言葉を教えてくれるモンスターなのです。ギルドでは、危険種に指定されています。


 なお、危険種とは、ダンジョンに潜る冒険者のレベルに合っていないモンスターのこと。

 つまり、何が言いたいのかというと、めちゃめちゃ強いってことだけ覚えておいてください。



 良いですか? 覚えておいてくださいよ?



「エンジュ、アンバー、怪我はないか?」

「……えぅ」

『……きゅ』



 まあ、薄々わかってはいましたが……。


 それでも、予想と現実が一致した事実に驚きを隠せないのは許してください。

 ほら、私の隣に居るアンバー……この子もどうやら心読みができるようで、瞬時に私の立場を理解してくれました。


 そんなとても賢い良い子も、今はただただ目の前で起きている光景に口をあんぐりと開けるしかできないようです。



 みなさんも予想していたと思います。

 では、状況の答え合わせと行きましょうか。


 今、私たちの目の前には、コテンパンにやられダウン中のサラマンデルさんがいらっしゃいます。目をクルクルと回して地面に伏せています。

 予想通りでしたでしょう?

 

 そりゃあもう、敵であるのに敬意を払いたくなるほどの一方的な戦闘でした。

 心読みをしましたが、イヴは私たちに危害が及ばないよう頑張ってくれたようです。ありがたいことです、ええ。



「さて、こいつは危険種だから倒しちゃダメだろ? エンジュ、悪りぃけど回復魔法かけてやってくれねえか? 俺にはできねえんだ……」

「う!」

「サンキュ。……ごめんな」

「うう!」

「それと」



 とりあえず、サラマンデルさんの戦意がゼロになっているのでHPだけ回復させましょう。

 MPを回復させると、火を吹いてくる可能性もあるので。


 そう思ってサラマンデルに近づこうとすると、後ろからイヴが話しかけてきました。



「……エンジュ、援護サンキューな」

「う……」

「アンバーも」

『キュイ……?』



 と、言われましてもね……。


 私たちは、援護していませんよ。

 アンバーも私も、指ひとつたりとも出していません。


 全部、貴方の実力ですなのです。


 なんて、言ってもわかってくれないのでしょうね。

 というより、どう伝えたら良いのか検討もつきません。



 今、イヴの頭の中には「エンジュにカッコ良いところを見せたかったのに、また手を借りてしまった」「俺は1人じゃ何もできない奴だ」と落ち込んでいるのです。


 それを顔に出さないようにしているけど、心はシュンとしているのが丸わかりです。



「君の援護は、なんだかここが熱くなるんだ。俺の背中を押してくれるようで、ここが……。ありがとうな」

「……イ、ヴ」



 イヴは、そう言って心臓を押さえています。


 なるほど、わかりました。


 そうですね。であれば、私はイヴを「援護」しました。



 心の中で、必死に「がんばれ」と「援護」したのです。きっと、彼はそのことを言っているのでしょう。


 ……そういうことに、しておきましょう。ねえ、アンバー。



 私がアンバーの方を向くと、横目でチラッとこちらを見てくれました。

 この子は、イヴのことが気に入ったようです。


 ……気性難ってなんなんですかね。

 まあ、細かいことを気にしていても仕方ないですね。それよりも、イヴの肩は私の場所ですよ。



「イヴ、おう、えん!」

『キュイー!』

「……へへ、ありがとう。こんな使えねえ俺なんかに優しいな」

「……」

『……キュイ』



 ……なんて。アンバーと競う前に、私にはやらねばいけないことがあります。


 そうです、イヴのこの性格です。

 心配性ステータスがついているのも影響していますが、この自信のなさは前パーティメンバーのせい。


 ええ、あいつらのせいです。

 私は、とても怒りを感じています。



 ということで、今の戦いで全く使わなかったMPを遠視に使いましょうか。


 実は、ちょうどあのムカつくパーティメンバーもこのダンジョンの奥地に居るんです。

 出会わないように私が道案内していたんですよ。キノコにはしゃいでいた訳ではありません。


 私は、サラマンデルにHP回復の魔法をかけつつ、同時に遠視魔法を発動させました。


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