ヒラミタケも、私が(以下略)


 ダンジョン内は、自給自足が原則だ。


 たまに移動型食料ショップも通るが、遺跡や砂漠、火山や雪山のダンジョンに比べたらこのダンジョンは出現度が低い。

 しかも、あんまうまくねえし。


 まあ、回復薬とか治療薬が尽きた時とかは便利だけど。

 今のところ、その辺のもので作れるし困ったことはないなあ。


 ヒラミタケも大量にゲットできたし。

 ……てか、これって本当にレア度高いのか? クッソ生えてたぞ?


 まあ、それはさておき。



「エンジュ、ゆっくり食えよ」

「うっ! うっ!」

「味付けは薄いとか濃いとかないか? あったら調整するから」

「おーいひっ!」

「そっかそっか! 良かった。エンジュは小っちぇんだから、いっぱい食えよ。それだけデカくなるから」

「おうー!」



 ダンジョンに潜って早数時間。

 陽が落ち始めて、サイレンホウシの光が……サイレンホウシってのは、植物の一種で夜になると光るんだ。最初見た時は戸惑ったが、これはこれで綺麗だから俺は好き。


 そのサイレンホウシがポツポツと光出した時間帯のこと。俺らは食事を摂ることにした。

 もちろん、腕によりをかけて作ったぜ。



 今日の夕飯は、ダンジョンに潜って最初に獲ったヘビーベアの肉にハーブを擦り込んで焼いたステーキと、きのこと木の実の炒め物、それに、マビタケを絞ってそこに蜂蜜を入れたMP回復ドリンクだ。


 エンジュの活躍でたくさん剥ぎ取りができたからな。

 その分MPを大量に消費しただろうから、俺が腕を奮ったんだ。どうやら、気に入ってくれたらしい。


 先ほどから、どこにそんな量が入るんだ? と疑問に思ってしまうほど食っている。



 可愛い。

 やっぱ、たくさん食うやつは可愛いなあ。



『キュイ!? キュイ、キュイ!』

「あん? なんだ、アンバー。お前も食いてえのか?」

『キュイ!』



 盛り付け用スプーンを片手にエンジュの顔を見ていると、その隣で丸くなって眠っていたアンバーが急に騒ぎ出した。



 そうだよな。俺らが食うんだから、アンバーだって食いたいよな。

 エンジュにアピールすることで頭がいっぱいだったから、忘れてたぜ。でもよ、ひとつ疑問があるんだ。



「お前何食うんだ? まさか、冒険者と同じもん食うわけないだろ。塩で味付けしちまったし、ハーブも使ってるからあんま良くねえだろ」

『キュイ……』

「んー……。あ! ちょっと待ってろ」



 その様子からすると、やっぱ冒険者用の食事ではダメらしい。


 でも、アンバーってモンスターが食うような虫や木の実が満足しねえ気がするんだよな。

 さっき採取したリンゴや琵琶をそのままあげても良いが、それじゃあなんか味気ないだろ? アレンジできねえかなあ。



 そう思った俺は、ケータイポーチから浅皿と小型のナイフを取り出す。



「さっき獲ったリンゴと琵琶を切って……」

「う?」

『キュウ?』

「~♪」



 そして、エンジュとアンバーが注目する中、琵琶の皮をサッと剥いてリンゴにナイフを入れていく。鼻歌はご愛嬌だ。

 下手くそなんて言わせねえ!


 ちなみにこれは、故郷でよく妹にやっていたもの。


 味は変わらないが、見た目が変わると食事の楽しみが増すんだ。

 母ちゃんも、味だけじゃなくて見た目も大事って言ってたからな。こうすれば、アンバーも俺らと一緒に食事してる感が出るだろう?



「ほい、完成」

「ふわー!」

『キュイ~』



 切ったものを盛り付けた皿をアンバーに差し出すと、キラキラとした瞳でそれを覗いてくる。名前負けしない琥珀色の瞳の輝きが眩しい。

 エンジュは、名付けのセンスがあるなあ。ステーキとかにしなくて良かったぜ。


 そんな瞳の先にある皿には、俺が剥いたリンゴと琵琶が乗っかっている。


 しかも、良く見てくれ!

 リンゴは、段をつけて木の葉のように1枚1枚を薄く切ったんだ。見た目も良いし、アンバーの小さな口でも食いやすいだろう。


 琵琶も、ちゃんと種を取って一口サイズにしたし!

 どうだ、好感度アップか!?



「イヴ、こえ」

「ん? なんだ、エンジュも欲しいのか?」

「ほ、ほし! ほし!」

「わかったわかった。リンゴはまだあるから、慌てんな」



 自信を持ってアンバーの前に皿を置くと、今度はエンジュが俺の腕を引っ張りながらリンゴを指差して大興奮してやがる。

 どうやら、彼女も同じようにやってほしいらしい。

 妹もこれ好きだったが、女の子はこういうのが好きなのかもしれない。



 俺は、そんなエンジュを宥めながら再度ナイフを手に取った。

 ここで、「イヴ使える! これからも一緒に!」って言わせてやる!



「イヴ、すぅ、いー。あい、すいー」

「こら! ナイフ持ってる時は抱きつくな!」

「あうー」



 ……ん? 今、好きって言ったのか?


 いや、言ってたとしてもラブじゃねえ。

 ライクだ。妹によく言われているようなやつだろう。


 なんて思いつつ、チラッとエンジュを確認する。



「えうー?」

「……な、なんでもねえ!」

「う?」

『キュイ』

「ほら、アンバーは早く食え!」

『キュイ~~』



 ああ、リンゴのことか。


 彼女の視線は、俺じゃなくてリンゴに向いていた。

 勘違いして「イヴ、キモい」とか言われるところだった。あぶねえ。

 女慣れしてねえんだ、勘弁してくれ。



 という俺の葛藤をよそに、夕食は楽しく進んだ。

 エンジュにあーんしてもらったり、剥いたリンゴを食べようとしないアンバーに「食え!」と言ったり。


 エンジュにあーんしてもらったり! 大事なことなので2回言ったぞ!


 こんな賑やかな食事は、久しぶりだぜ。いつもは、「まずい」「味薄い」「作るの遅い」で催促ばかりされて焦って作ってたし、俺の分ほとんどなくていつも腹空かせてたっけなあ……。

 やっぱ、エンジュもアンバーも親切な奴らだ。



 しかし、そんな和やかな時間は、長くは続かない。

 陽も落ちて、そろそろテントでも張ろうと思い準備している時だった。



「イ、イヴ!」

「どうした、エン、ジュ……!?」

『キュイ! キュイ!』



 エンジュの鋭い声に驚いて振り向くと、そこには危険種としてギルドに登録されているサラマンデルの姿が。

 あろうことか、こっちに向かってゆっくりと歩いてきてるじゃねえか!


 全長3Mはあるだろう巨体に、真っ赤な胴体、そして、口から漏れ出すマグマの吐息。

 危険種と言われているだけの、迫力がある。



「エンジュ、アンバー! 俺の後ろに隠れろ!」



 逃げる時間はない。


 俺は、手に持っていたテントの骨を横に放り投げ、背中から剣を抜く。


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