白い龍、アンバー


 メインクエスト「ラムエウ30頭討伐」を終えた俺らは、そのまま次のクエストに移行した。

 所謂サブクエストというもんで、本来ならやらなくても良いんだが……。



 というか、ラムエウ30頭っつったら、普通もっと討伐時間かかるはずなんだけどな。

 予想よりかなり早めに終わっちまったから、サブもやろうって話になったってワケ。



 にしても、今日は良い日だなあ。

 単独行動の多いラムエウが群れでいるところをたくさん見つけられたし、倒しても液状化せずに素材剥ぎ取れたし!

 こりゃあ、パーティ追放なんてマイナスを打ち消す……いや、それ以上のプラスだぜ。


 エンジュは、俺の女神様だな。

 可愛いし。

 彼女と出会って、本当に良かった! パーティ追放万歳!



 なんてルンルン気分で歩いていると、隣に居たエンジュの顔がどんどん真っ赤になってやがる。




「どうした、エンジュ? 暑いか?」

「!? ……え、うう」

「そっか。具合悪かったら言ってくれな。この辺人が居ないから、抱っこされても恥ずかしくないだろう?」

「……うう」

「ははは! エンジュは恥ずかしがり屋さんだなあ」



 特に問題ないらしい。

 でも、ちょっとだけ不機嫌な気もする。なんでだ?



 俺、何かやっちまったか?

 色々嬉しいことが重なって、浮かれてたからあんま覚えてねえ……。


 クエスト中にエンジュ置き去りにして、群れを追ってったのがダメだった?

 それとも、クエスト終わってエンジュの頭ワシワシ撫でたことか? あと、素材たくさん剥ぎ取れて嬉しくなっちまって、エンジュのこと肩車したことか……。


 やべえ、心当たりが多すぎる。



『キュイ』

「なんだよ、……えっと、お前名前なんて言うんだ?」

『キュイ、キュイ』

「……エンジュ、こいつの言葉わかるか?」

「う?」

「だよなあ」



 色々考えをめぐらせていると、肩に乗りっぱなしだったモンスターが俺の頭を小突いてきた。

 静かすぎて存在を忘れていたぜ。そして、地味に痛え。痛え。


 エンジュに聞いても、知らない種類のモンスターらしい。

 結構ダンジョンは潜っているつもりだったんだけど、俺も見たことないな。ドラゴンっぽいけど、それにしては間抜けすぎるというかなんというか。小せえし。



『キュイ!!!』

「イッテェ! サイズの割には、力すげえ……」



 もしかして何かの希少種か?

 いやでも、希少種がラムエウの背中に乗って日向ぼっこなんてしてるもんか。本物のドラゴンも然り。最近見つかった、新種のモンスターとかだろう。


 ドラゴンっぽい見た目のモンスターとか、すごいよな。

 きっと、こうやって外見を強く見せて、他のモンスターから身を守っているんだろう。



 でも、なんで俺の肩にずっと乗ってんだ?

 ラムエウ倒しちまって、居場所が無くなったから? いやでも、ラムエウなんてその辺に居るし……。よくわかんねえ。


 さっき「一緒に行くか?」って聞いたら嬉しそうに「キュイ〜」って言ってたから連れてきたが……。



「いでっ、痛えっての! 俺は、お前のことは襲わねえから安心しろ!」

『キュイ』

「……ったく、こっちの言葉はわかるみてえだな」

『キュイ……!』

「あで!? わかったから、それで返事を返さないでくれ!」



 また、頭突きしやがった!

 こいつ、かなり表皮が硬いから小突かれると痛えんだよ。


 本気で頭突きされたら、俺の頭蓋骨割れんじゃねえの? 



 まさか、人間の頭蓋骨が好物で俺のこと狙ってる!?


 俺、こんなところで死にたくねえ。

 まだエンジュと一緒にダンジョン攻略してえ……。



「ふふ……」

『キュイー』

「な、なんだよ」

「ううん」

『キュイキュイ……』



 俺がモンスターに怯えていると、それが面白かったのかエンジュが笑ってきた。いや、モンスターも一緒に。なんだ、なんだ?


 よくわからない俺は、ダンジョンの奥へ進みつつ首をかしげるしかない。



「とりあえず、お前に名前がないと不便なんだよな。エンジュか俺が名付けても良いか?」

『キュイ』

「サンキュ。じゃあ……」



 やっぱ、言葉はわかるらしい。

 今度は頭突きではなく頬擦りをしながら嬉しそうな声を発してくれた。



 名前、何が良い?

 ゴンザレス、レストラン、湯豆腐、ステーキ……ん、腹が減ってきたぞ。



『キュッ!? キュイ、キュイー!』

「あん? エンジュに決めて欲しいだと?」

『キュイ!』

「なんでだよ、せっかく俺が名前を決めているところ……痛え! わ、わかったわかった、エンジュパス!」

「ふふ」



 な、なんだあ? このモンスターは、気まぐれなのか?

 俺が名前を考えていると、途端に慌て出して髪の毛を引っ張ってきた。


 しかも、もみあげ部分!

 めちゃくちゃ痛え!



 痛みによって立ち止まった俺は、モンスターを引き剥がしながらエンジュに向かって話しかける。すると、彼女も一緒になって歩みを止めてくれた。



「んん、……あっ」

「んー?」

『キュイ?』



 エンジュは、しばらく難しい顔してなにやら考えているようだが、閃いた表情で地面と向き合った。そして、杖を筆代わりに文字を書き始める。



「……あ、ん、ばー? アンバーか?」

「う!」

「琥珀か、良いじゃん。お前の瞳が琥珀色だもんな」

『キュイー! キュイキュイ!』



 エンジュの字は相変わらずだ。

 でも、なんとなく読めるから不思議だよな。


 彼女は、まるで「どうよ!」とでも言ってるような顔でモンスターの顔を覗いた。すると、すぐに嬉しそうな声が。


 どうやら、気に入ったようだ。

 俺の肩から飛び立ち、エンジュの周囲をクルクルと回っている。



「じゃあ、改めてよろしくな。アンバー」

「うん、ばー、かーいい」

『キュイーッ!』



 ってな具合で名前も決めちまったし、こいつはしばらくついてくるだろうな。

 まあ、頭突きしなきゃ良いよ。瞳も綺麗だし。



 挨拶を交わした俺らは、再びダンジョンの奥へと歩き出す。


 向かうは、サブクエスト「ヒラミタケ」の採集場所だ!

 Dランククエストも、こうやってこなすと楽しいな。



 俺は、いつの間にか「どうしよう」と考える回数が減っていることに気づき微笑んだ。


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