もうツッコミきれません……
イヴが強いのは、出会った時の雰囲気でわかっていました。
いつもはオロオロしていますが、スイッチが入ると鋭い視線で獲物を狩る、その切り替えはお見事なものです。
このようなランクの低いモンスターにも全力を出すそのお姿は、模範的な勇者というものでしょう。
私もさまざまな剣士とパーティを組んできましたが、その中でも頭ひとつ以上飛び抜けて優秀です。
でもですね……。あの、なんと言いますか。
正直、ここまでとは思っていませんでした。
「エンジュ〜、終わったぞ〜!」
「…………!?!?!?!?!?!?」
「やっぱ、エンジュはすげーや! 君と居ると、絶好調だ!」
「……イヴ、そ、え」
「ん? ああ、ラムエウ群れに紛れて居たから、ついでにな。話しかけたらついてきたんだ。エンジュは、このモンスター知ってるか? って、ちょっとやめろお前! くすぐったい!」
「…………」
確かに、イヴは私に「悪いけど俺にはできないから剥ぎ取りお願いしても良いか? その分俺は、そっちに群れを見つけたから狩ってくる!」って言いましたけど。
私も私で、頷きましたけど!
だからって、聖女の私でさえ遠目でしか見たことがない、頻出度超激レアで気性難なミニドラゴンを連れてくる人が居ますか……!?
え!? これ、そんな簡単に捕まるモンスターなんですか!?
話しかけたらついてきたって、そんなことあります!?
しかも、なんか懐いてません?
イヴにめちゃくちゃ擦り寄ってるんですけど! 気性難ってなんですか!?
私は、イヴの肩に止まり気持ちよさそうな顔をするドラゴンを、ただただなんとも言えない気持ちで眺めていることしかできません。
この気持ちは、なんでしょうか……。
虚無とは違う、けど、それに近しい感じがします。
「てか、ラムエウ消えなかったんだ! あっちも結局1頭も消えてないんだよな。今日はどうしたんだ?」
「……あ、ぅ」
「とりあえずここの保存は俺がやっておくから、エンジュはあっちの……ほら、そこに大きな木が見えるだろう? その下に10頭居るから、解体お願いしても良いか?」
「……う、う」
「サンキュ。マジで、なんであいつらはこんな優秀なエンジュのこと役立たずなんて言ったのか、謎すぎるぜ……。ちょ、だから、くすぐったいってば!」
その言葉、そっくりお返しします。
ええ、そっくりそのまま。
頷いた私は、ミニドラゴンと戯れあっているイヴを横目に、指定された場所へと走りました。
ちなみに、モンスターが液状化しないのは私の能力です。
イヴにお金がないことがわかったので、少しでもお役に立てればなと思ってこうしました。彼には内緒ですよ。
その後ろからは、「だから、くすぐったいってば!」と変な笑い声が聞こえてきます。
……いいな、私も混ざりたい。
それに、その肩は私の場所だったのに……。
イヴは、あのドラゴンをどうするつもりなのでしょうか。
ちょっとだけ、気になります。
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