待って、それタンクがするやつ……



 エンジュのやる気を受け取った時、目の前にラムエウの群れが現れた。

 2.4.6……12頭! これは、一気に畳み掛けないと逃げられるぞ。



「エンジュ、ラムエウの群れだ! 行くぞ!」

「うー!」



 俺は、ケータイポーチが身体に密着していることを確認し、エンジュより数歩前へ出た。

 あまり離れすぎても、エンジュを守れねえだろ? 


 いやでも、待てよ。

 魔道士ってこんな前に出て良いんか? 援護魔法なら、もう少し後ろからでもできると思うが……。



 そう思って後ろを振り向くと、やる気満々にラムエウの群れを見つめるエンジュが。


 ……そっか、仲間だもんな。

 俺が、彼女の行動範囲を狭めてどうする。その分、俺が守れば良いだけの話だ!



「シールド展開!」

「!?」

「ファイア付与!」

「……」



 エンジュの気合いを受け取った俺は、防御魔法を唱える。


 お? なんか、今日は身体が軽いぞ?

 やっぱ、5人と2人じゃ消費するMPが全然ちがうな。


 前は、5人一気に守れるシールドを展開しながらモンスターに立ち向かってたから、身体が重くて仕方なかった。

 それとも、これはエンジュの援護魔法か? だったら、やっぱ彼女はすげぇや。俺も負けてらんねぇぜ!



 気合いを入れ直した俺は、そのままラムエウの群れと素早く距離を詰める。


 ロングソードに付与したファイアは、こいつらの弱点なんだ。

 少しでも擦れば、モコモコしたワタ状の身体にチリチリと火がつく! そこで、慌てふためく奴らを叩っ斬る!



「はあっ!」

「……う!」

「やあ!」

「うー!」



 ロングソードを真っ直ぐ構えて敵を薙ぎ倒していると、後ろではエンジュの声が聞こえる。


 ……正直、その声はクッソ可愛い。

 マジで癒し。後ろを振り向いて、その必死な姿を拝みたい。


 いやいや、集中しろ!

 低級モンスターでも、気を抜いたら怪我するぞ!



 俺は、アタフタと逃げ惑うラムエウを端から勢いよく切りつけていく。

 ザシュッと気持ち良い音が響き、次々と地面に敵が転がって……ん?


 転がってってことは……やっぱり!


 剣を振りかざしつつ横目で地面を見ると、そこには消えなかったラムエウが倒れ込んでいる。

 しかも、1、2頭じゃない! チラッと確認しただけで5頭は居たぞ!



「わっ、ラッキー! 今日はたくさん剥ぎ取れそうだぜ、エンジュ!」

「うー!」

「ははは! 調子も良いし、切れ味も落ちねぇ! エンジュにも出会えたし、やっぱ今日は良い日だ!」

「はう……」



 最後のラムエウを倒すと、今まで倒してきた奴らが地面に転がっているのが見えた。さっきのは見間違いなんかじゃなかったんだな。

 数を数えると、ひーふーみー……12! いや、そんなわけ。もう一度。ひーふーみー……やっぱり12! すげえや!


 今回はどうやら、12頭全てが消えずに剥ぎ取りさせてくれるようだ。

 こんなラッキーなことあるんだな。


 こいつの毛皮は、高く売れる。こんな消えないなら、ファイア付与しなきゃ良かったかも。でも、剥ぎ取れる箇所はあるからいいか。



 ロングソードをしまった俺は、そのまま剥ぎ取り用ナイフを持ちラムエウに近づく。

 すると、



「イヴっ、イヴ!」

「ん? どうした、エンジュ」

「はんっはんっ! ふー!」

「……え、魔道士って剥ぎ取りの魔法も使えるの!?」

「んっ、うん!」



 と、エンジュが俺の裾を引っ張り必死に杖を振っている。


 聞けば、知見のあるモンスターの剥ぎ取りなら魔法でサッとできるらしい。逆に、知らないモンスターや食材にするための剥ぎ取りはできないそう。

 いやいや、めっちゃ便利じゃん!


 驚く俺の目の前では、すでに10頭の剥ぎ取りが終わり地面にパーツごとに並べられている。早業すぎないか?



「ありがとう、エンジュ。じゃあ、俺は素材をベールで包んで鮮度を保とう」

「!?」

「どうした? 最近覚えたスキルだから、あんま使えないけど練習がてら使わせてな」

「……」



 ナイフを懐にしまい、俺は解体されたラムエウに手を合わせる。

 すると、後ろで慌てた様子のエンジュも同じ行動を取ってくれた。それに苦笑しつつ、素早く手を翳してベールで包む作業に入る。


 ジャンに「下手くそ!」ってよく言われてたな。

 ジャンも使えるらしいんだけど、毎回俺がヘマしてたせいで「MP消費が激しくてそこまでできない」って言ってた。だから、申し訳なくてスキル取得したんだよ。



 覚えててよかった。

 エンジュも、文句言わずに見ててくれるし。急かされないと、ゆっくりできるから失敗も少なそう。この調子で、頑張ってレベル上げするぞ。



「よし、ありがとうなエンジュ。次行こう!」

「おうー!」



 木々の間を抜ける風が、心地よく俺の頬を撫でていく。

 隣のエンジュの髪もなびかせて。


 ああ、ダンジョンってこんなに自然が美しいところだったんだな。

 今までは、仲間とモンスターで精一杯すぎて見たことがなかったよ。



 俺は、ベールで包んだ素材をケータイポーチに入れ、エンジュと一緒に奥へと進む。



 

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