その魔道士、多分サボってましたよ?



「うー、うー!」

「お? また何か見つけたのか?」



 俺らは、森林の生い茂るダンジョンを歩く。


 ……んだが、先ほどから何故か人が居ない。

 いつもなら、何組かすれ違うんだけどな。まあ、天気も悪いしそんなもんか。



 にしても、エンジュが可愛くて仕方ない。

 分かれ道に行くと、いつもならどっちに行くかめちゃくちゃ悩むのに、今日は彼女のお陰で一度も迷わずに結構奥まで来れたんだ。


 だってな、キノコや木の実を見つけては一直線に走って行き、採ってきては嬉しそうな顔して俺に見せてくるんだぜ?

 分かれ道があるたびに、俺の前に出て走って採ってを繰り返している。だから、迷ってない。



 一回だけ、右にキノコ、左に回復草があった時だけ悩んでいたみたいだが……。

 それでも、俺に比べりゃ素早い判断だ。どうやら、エンジュはキノコが好きらしい。



「おお! これは、激レアなマビタケじゃん! MP回復に役立つから、後でエンジュに調理してやるからな」

「うっ、うぃー」

「ん? 俺も食って良いの?」

「うっ、うっ!」

「サンキュ。じゃあ、メイン討伐終わったらゆっくり食おうな。さっきのヘビーベアと一緒に」

「うっ!」



 な? 可愛いだろ? 


 俺の言動にいちいち反応して喜んでくれるなんて、この子は本当に良い子だ。

 荷物持ちだって、いつもは俺が無条件で持ってたのに「うー!」と言って持ちたがるんだ。


 でも、これだけは譲れねぇ。

 ちっちぇーエンジュに、重たい荷物を持たせるわけにはいかねぇからな。……にしても、なんだかいつもよりケータイポーチが軽いぜ。



 ああ、このショルダーリュック式ケータイポーチは、ギルドからの支給品な。

 中が四次元空間になっていて、小さいのにいくらでも収納できるんだ。


 まあ、小さいと言っても、エンジュが背負えば普通の大きさだな。やっぱ、この子には持たせらんねぇ。


 中は、冷蔵保存もできる空間がある。

 だから、さっきのさばいた肉も数日は保つ。便利だろ?

 自分で購入すると、10万Gはする。……恐ろしくて、間違ってでも汚せないぜ。全く。



「今回の討伐モンスターは、Dランクのラムエウだ。さほど難しくはないから、すぐ終わるだろう」

「らうえう、かーいい」

「エンジュのが可愛いよ」

「はう……」

「……あっ、ご、ごめん! セクハラとかじゃなくてだな……」



 心の声が漏れやがった!?!?


 慌てて言い訳じみたことを言うと、真っ赤になったエンジュが「イヴ、も、かーいい」と言ってきた。

 何基準なのかよくわからんが、とりあえず不快には思ってないらしい。良かった。



 まあ、とにかく。

 ラムエウとは羊のモンスターのことだ。


 全長はエンジュくらい。皮膚も柔らかくて切りやすいが、とにかく大量発生するんだ。自然界のバランスを壊そうとするかのように、繁殖スピードが早い。


 だから、壊れる前に狩らないといけないってことな。

 下級モンスターだから、運が良ければ素材の剥ぎ取りができるって感じ。普通は、倒すとパシャッと水みたいに居なくなる。


 このクエストは、年中……とくに、繁殖期に入る春は多い。



「……30頭か。剥ぎ取りする時間を考えると、群れで居るところを狙うしかないな」

「あんっばうっ!」

「おう、頑張ろうな! エンジュのことは、俺が守るから」

「うー!」

「……そうだな。君も冒険者だもんな、動きたいよな。よし、2人で頑張るぞ!」

「あいっ!」



 ……そっか。


 エンジュは、動きたくないなんて言わないのか。

 俺はてっきり、魔道士は動かず戦闘を記録するのが仕事なのかと思ってた。セリーヌは、いつも戦闘になると後ろの方で隠れてるだけだったから。


 そうだよな、エンジュはセリーヌじゃない。

 記録しながら戦ってくれるってことか? MP消費が酷そうだな。終わったらすぐにキノコジュースを作ろう。



 エンジュは、「イヴ、えんごすぅ」と必死になって言葉を発してくる。

 特に、いやいや言っている様子も、言わされている感じもない。


 俺は、ますますエンジュがパーティ追放された意味がわからず、彼女の前パーティの奴らに怒りを覚える。



「居たっ! エンジュ、群れのラムエウだ!」

「うー!」



 そんな俺らの前に、ラムエウの群れが現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る