2章
それ、S級モンスターですよ……
パーティ登録も終わったし早速ダンジョンでひと暴れするぜ!
そして、エンジュに俺と居るメリットをプレゼンしなければ……!
……という思考の元ダンジョンに入った俺は、彼女を安全な場所で待たせて先に夕飯を獲ってきた。
宿に泊まるだけの金がないと気づいたエンジュが、泊まり型のクエストを提案してくれたんだ。その優しさが嬉しくて、ちょっと張り切っちまった先にこのモンスターが居たって感じでな。
ふふん、幸先が良いだろ?
「エンジュ〜〜! 今晩の飯獲ってきたぞ〜!」
「……!?」
俺が抱えているこれは、ヘビーベアと言って焼肉に最適な食材なんだ。1頭狩れば、3食分は取れるぞ。この脚部をレアで焼いたのがうまいんだよな〜。
ライトベアっつー、下級モンスターも美味いけど、俺はこっちの方が好き。
だから、エンジュにも食わせてやりたかった。
ドスッと鈍い音を立てて、彼女が座って待っていた場所に獲物をおろす。
すると、なんだかびっくりしたような顔をしてるじゃんか。もしかして、モンスターをこんな直近で見たことないとか?
やべっ!? だったら、怖がらせてないか?
そうだよな、女の子なんだからグロいのはあまりよくないよな。俺ってば、マジで気遣いできねえなあ。嫌われてたらどうしよう……。
「わ、悪りぃ。あの、別のところでさばいてくるから、えっと……」
「うっ、うっ!」
「……ん? 大丈夫ってことか?」
「う」
「そ、そっか。良かった」
ヘビーベアを持ち上げようとすると、慌てたエンジュが俺の服の裾を引っ張ってきた。
どうやら、怖くはないらしい。良かった。
俺は、彼女に断りを入れてから持っていた小型ナイフを取り出す。
「美味しい命をありがとう」
「あーとぅ」
「……よし、さばくぞ!」
討伐OKのモンスターでも、ちゃんと命に対してお礼を言わないとな。
俺が手を合わせていると、エンジュも一緒になって手を合わせてくれる。
こういうの嬉しいよな。ジャンとかセリーヌは「何それ、キモい」って言って理解してくれなかったし。
なんて、昔のことはもう良い。
今は、エンジュに「俺使えますアピール」をしないと!
食材をさばいたり調理したりするのは、故郷でよくやってたから得意なんだ。
なんせ、母さんの料理が酷かったからな。あんなの食わされるくらいならって台所に立ってたら、いつの間にか調理スキルを取得してたんだ。母さんさまさまだぜ。
……考えただけで冷や汗が出る。
あれは、いただけない。
「わっ」
「たくさん血が出るだろう? 生きてた証拠だよな。こうやってすぐに血抜きしないと、肉が硬くなって上手くないんだ」
「い、のち、あーとぅ」
「だな。これと木の実とキノコでしばらくは大丈夫そうかな」
「う! イヴ、あーとぅ」
「エンジュも、ついてきてくれてありがとうな」
「……」
エンジュは、杖を握りしめながらヘビーベアをジッと眺めている。
解体中にせかされないのも良いな。
美味い部分を逃さず取れるから。やっぱ、俺ってばエンジュと相性良いのかも。
って!? 違う! 俺が快適になってどうすんだよ。
エンジュにアピールすんだよ!
ああ、俺ばっか楽しんで呆れられていたらどうしよう。「この人、食べることばっかりでつまらないです。さようなら」とか、「あれだけ時間かけたのに、味はいまいちでした。これなら、私が作った方が(以下略)」とか!
ああ、どうしよう、どうしよう。
「ふふ……」
「……ど、どうしたんだ?」
「うー」
「な、なんだよ」
肉を裁きながら脳内パニックを起こしていると、なぜかエンジュが笑ってきた。
聞いても、ジェスチャーで「なんでもない」と言ってくる。
何か、面白いことでもあったんか? まあ、よくわからんが、急いでさばいちゃおう。
俺が、ナイフを持つ手を再度動かしていると、エンジュが杖を高々と掲げて魔法を使ってきた。
その光は、ヘビーベアの四肢を固定してくれる。
すげえ! これで、解体しやすくなったぜ。
にしても、詠唱なしで魔法を使うとか、こんな魔導士は初めてだ。
やっぱり、エンジュはすげー子だわ。それに比べて、俺は……。
「う! うー」
「あっ……。す、すまん。固定してくれてありがとうな。すぐ解体するから」
「うー」
「急がなくて良いって? やっぱ、エンジュは優しいな」
「あ、う」
1人で落ち込んでいると、エンジュが杖を振って応援するように声をかけてくれる。
あー、楽しい。
まだモンスターを狩ってないけど、めちゃくちゃ楽しい。
俺、パーティ抜けて彼女に会えて良かったかも。
よし、恩返しするぞ。
ダンジョンで、この子に傷一つ付けさせないからな!
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