絶対王者は声を隠す〜パーティを追放された「無能」剣士と、異世界からやってきたチート級聖女の冒険記。欲しい仲間は、ツッコミ役。強さは既にSS級なので不要らしい〜
これは、心配性の剣士と普通の生活をしたい聖女のお話です
これは、心配性の剣士と普通の生活をしたい聖女のお話です
こんにちは、みなさま。
私の名前は、エンジュ・カリティエ。聖女魔法の使い手です。出身地は……。
ちょっと難しいお話になるのですが、私はここの世界の人間ではありません。
数十年前、お母様と一緒に「地球」というところからやってきました。
もちろん、望んでやってきたわけではありません。
召喚の儀式を経て、こちらへ来たそうです。……まあ、当時の私はやっと歩けるほどの年齢でしたので、事情も状況もわかりませんし、覚えていませんが。
召喚したお偉いさま方の言葉を借りると、私たちは「聖女」という職業にカテゴライズされた貴重な人材だとか。
もっと具体的に言うと、この世界の「魔」と対等に戦える唯一の職業らしいですよ。知ったこっちゃありませんけどね。
そんな私が、なぜ魔導士としてギルド登録しているかというお話ですが……。
ちょっとだけ昔話をさせてください。
先ほども話しましたが、この国で聖女という職業はとても珍しいのです。
それもあって、最初の方は高待遇でしたが、段々と私たちを政治利用する輩が現れました。
元々召喚されたこと自体に納得がいかなかったお母様は、その環境に嫌気が差して、私を連れて王城から逃亡。人っ子ひとり存在しない森の中で楽しい生活を手に入れました。
この辺りの記憶は、私の中にもあります。
しかしまあ、そんな生活が続くはずもなく。
私を守ったお母様は、兵に見つかり王城へと強制送還。他国との戦争の道具として使われ、最後は生贄と称して生きたまま火炙りにされたそうです。
住んでいた家の床下へ隠された私は、兵の目を逃れて生きているのに。
今でも目を瞑ると、聞こえてくるはずもないお母様の断末魔が耳をよぎります。その断末魔に混ざり、「逃げて、逃げて。エリ、大好きよ」と私の身を案じるお母様の優しい声も。
私は、卑怯者です。
お母様に守られながらも、「貴女だけは、絶対に王城に捕まってはダメ」という言葉に縋り助けにいかなかったのですから。お母様は、私が火炙りして苦しめたと言っても良いでしょう。
だから、今もお母様の教えに則り「冒険者」になって生活を続けています。木を隠すなら、森の中。私の住んでいた場所の諺らしいです。
***
そんなこんなで、今まで何度かパーティを組んできましたが……。
力加減がわからず、魔導士じゃないとバレそうになったり、今回のように「役立たず」と言って罵られたり。
うまくいかないものですね。
そうして、もうパーティを組まずにソロ活動へ切り替えようかなと思った矢先、イヴという剣士に出会ったというわけです。
『やめろ!!』
『誰でも良いだろ。でも、暴力は好かん』
『ああ、いいさ。俺は、この子とパーティーを組む! んでもって、Sランク目指す! 人を馬鹿にするようなお前らなんかに負けねぇ』
彼は、とても堅実で……でも、いつも頭の中では「どうしよう」と迷いながら行動に移すまでの時間が長い人でした。
その様子は、どこか私のお母様を思い出させてくれます。どこか懐かしく、温かく。
聖女スキルである「心読み」のできる私は、そんな彼の思考を覗いて何度も微笑みました。
だって、他の人にある「欲」がないから。
いつも、他人のことばかり考えて自分は二の次。
そんな人が、お母様以外にも居たのですね。
心配性ステータスがなければ、きっとその辺の騎士よりもずっとずっと強いでしょう。
このステータスは、どこかダンジョンで呪いを受けてきたのですかね? 私なら外せますが……正体がバレてしまうのでこのままにさせてください。
そうそう、言い忘れていました。これはお母様にはない能力でしたが……。
私が口にした言葉は全て本当になってしまうなんて、厄介な能力もあります。
空がピンクだと言えば、次の日から人々はピンクだと言うでしょう。1Gを1万Gと言えば、それ相当のお金になってしまいます。
お母様は、この力を「絶対王者」と言っていました。とても、恐ろしい力です。
それを知ってから、私は喋るのをやめました。いつの間にか、舌足らずな話し方しかできなくなってしまったのは許してください。
『あ、あの……す、すまん! さっきはああ言ったけど、別に俺とパーティー組まなくても良いからな。君にも選ぶ権利がある』
そんな私に、彼は「選ぶ権利がある」と言ってくださいました。
聖女という敷かれたレールを歩くしかないと諦めかけていた私の心に、スッと色を添えてくださった言葉です。
これも何かの運命でしょう。
私は、この優しすぎる剣士とパーティを組んでのんびりとした冒険生活を過ごそうと思います。
そして、いつか。……いつか、本当のことを話せるようになる日まで、拒絶されるまでは一緒に居たいなと思っています。
その代わり、優しい彼に付け込んで理不尽な要求ばかりしていた元お仲間さんから何か言われそうな時は、勝手ながら守らせていただきますね。
これからよろしくお願いします、心優しい、そして、誰よりも強い剣士イヴ。
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