助かった……?


 エンジュと大衆食堂で飯を食っていると、後ろにジャンたちが居ることに気づいた。


 声を聞いただけで、背中を冷や汗が伝う。

 ここで、俺が「役立たず」なことがエンジュにバレたらどうしよう。そのことで、頭がいっぱいだった。



「……う?」



 心配するように彼女が覗いてくるのが、なんだか情けない。


 なのに、俺ときたら声も発せねえの。

 ただただ、下を向いて嵐が過ぎ去るのを待つ子どものような態度で縮こまるしかない。


 そんな中、隣ではエンジュが周囲をキョロキョロとし始めたのが視界の端に入り込んでくる。すると……。



「え、やだ。あの子可愛い〜」

「こっち見てるよ! アルビノ?」

「目が真っ赤ですね」

「魔導士か? 魔力高そー」


 ヤベェ、気づかれたぞ!?


 まさかのジャンたちがこっちを見てるじゃねえか! 

 背中を向けてるからわからんが、視線をめちゃくちゃ感じるぜ。声もかなり近くからするし。


 ああ、終わった。俺の人生短かったな。

 故郷の妹よ、ライ麦パンをいっぱい食わせてやるって約束は叶いそうにないぜ。俺は、ここで灰になり塵と化す……。


 って覚悟を決めたのに、どうやら無駄足になりそうだ。



「で、なんの話してたんだっけ?」

「あれ? なんだったかな」

「奇遇ですね。僕も覚えていません」

「そんなことより、ご飯食べようよ。ペコペコ」

「そうだな。ところで、あの使えねえ新メンバーは……」



 聞き間違いじゃなければ、ジャンたちの遠ざかっていく音がする。

 セリーヌの笑い声がどんどん小さくなって、ざわざわとして人混みの中に消えていく。


 助かったのか?


 恐る恐る後ろを見ると、やはり誰も居ない。

 そこには、見知らぬ人々が空いた席を探して歩き回っているだけ。あいつらの後ろ姿すら見当たらねえ。



「……気づかれなかった?」

「うー」

「……もしかして、エンジュが?」

「う?」

「……いや、なんでもない。ごめんな、前のパーティメンバーが近くに居たんだ」



 まさかな。


 エンジュが何かしてくれたんじゃなくて、ただ単に、あいつらが俺に興味なくて気づかなかっただけだ。

 いつもなら落ち込んでいるところだったが、今回は助かった。



 ホッと胸を撫で下ろしていると、隣ではにっこり笑顔のエンジュがまたもや背伸びをして俺の頭を撫でようとしている。


 慰めてくれてんのか?

 本当、不思議な子だな。俺にはもったいないくらい良い子だよ。




 ちなみにその後、所持金が少ないことが彼女にバレて、結局人の金で食事をしてしまった。

 これは、どこかで挽回しねえと見捨てられるぞ……。頑張れ、俺。


 あと、タンドリーチキンはやっぱうめえ。

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