人生初の間接キス
「ちゃんと噛んで食えよ」
「う、うっ!」
ギルドでパーティ登録を終えた俺らは、互いの持ち金を出し合って大衆食堂に来た。
さすが、街で1番デカい料理屋なだけあってめちゃくちゃ混んでやがる。
そのため、隣に座るエンジュがぴったり俺にくっ付いているんだ。
食いずれぇし、非常に不本意だが……いや、嘘です。
めちゃくちゃ嬉しいです。なにこの小動物。頬をパンパンにしながらビーフシチューを食ってやがる。
でも、俺はそんな食べるわけには行かない。
なんせ、523Gしか所持金がないから。
さっき、パーティ登録で500G使っちまったんだよ。
「腹減ってたのか。気づかなくてごめんな」
「……? うー」
「お、俺は良いよ。そんな腹減ってないし……!?」
と、言う時に限って腹の虫は鳴く。
グーッと割と大きめの音がすると、すぐにエンジュが笑いながら持っていたスプーンを俺の口元に近づけてきた。
音に恥ずかしくなった俺は、勢いで彼女のビーフシチューをもらう。
……ん? もら、う……!?
ああああああ!
待って待って待って! これってどんな間接キスですか!?
「わ、わりっ! 俺、気づかなくて、えっと……」
「……う?」
「あ、えっと、その……同じスプーン使っちゃったから」
「……?」
「その、だな。同じスプーンを他の奴と使うと、間接キスって言ってだな……」
「……あ」
俺がしどろもどろになりながら説明すると、それに気づいたエンジュの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
可愛いけど、今はそれどころじゃねえ。
……にしても、目が赤いから顔も赤くなると髪の白色が目立つな。
いやいや! 今はそれどころじゃないって!
そんな真っ赤になったエンジュは、恐る恐る俺の方へと頭を持たせてきた。……どういう意味だ?
「……嫌じゃねえってことか?」
「う」
「そっか。俺も、良くわからんがエンジュになら良いやって思う」
「イヴ、よちよち」
「お?」
とりあえず嫌ではないらしい。
真っ赤になりながらも、それを誤魔化すように俺の服を掴み背伸びをし、頭を撫でてくれようとしている。
本当、年上なのに妹みたいなやつだな。俺は、それに応えるために頭を低くした。
すると、俺の後ろを知った奴が通る。
「全く、あいつが居ないと鍛冶屋のじいちゃんがまけてくんねえじゃん。なんで今まで砥石を10,000Gで買ってたのに15,000G払わねえといけねえんだよ!」
「ほんそれー。あのイケメン剣士くんも使えないしね」
「ねー。回復も防御もできない剣士とか、マジありえない」
その声は、俺をパーティから追放したジャンたちの声だった。
俺は無意識のうちに、頭をできるだけ下にしてやり過ごす。
ここで会って、エンジュに「やっぱり使えない奴だった」なんて言われたくない。
お願いだ、気づかないでくれ……。
背中に伝う冷や汗が、俺の鼓動を早めてくる。
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