とりあえず、喉が渇いた


 いつも通りいろんなことを考えながら移動していると、俺の耳に今一番聞きたくない言葉が入ってきた。



「お前、今日からパーティを抜けろ。この役立たず」

「……はい、ごめんなさい! ……?」



 反射的に返事をしてしまったが、そもそも俺はすでにパーティを追放されている。


 ギルドに登録解除されているらしいし、再度言われるようなことはないだろう?



 ってことは、他にも偶然俺と全く同じ状況に陥っている人がいるということか。

 と、結論を出しつつなんの気無しにそちらを向くと、俺よりも小さな少女が大きな奴らに囲まれているのが見えた。



「あんたって、喋らないし根暗? 気味悪い」

「魔法が使えるって言ったから拾ってやったのに! この足手纏い!」

「……」

「謝罪の言葉もなしか!」



 痛い、痛い。

 耳が痛い。


 大きな奴らが発言するたび、俺の心に針が突き刺さるかのように痛みを与えてくる。ここは、早く通り過ぎて川に向かった方が……。



 いや、違う。他人の俺だってこんな痛むんだ。


 言われている本人は、もっと痛いに違いない。

 下を向いて表情は見えないが、きっとそうだろう。



 いやでも待てよ。ここで俺が入っていって「や〜め〜ろ〜よ〜」なんてやったらどうだ? 「あんた誰?」状態になるに違いない。


 それだけならまだ良いが、「こんな奴にしか助けてくれるやついねえの?」とかなんとか言って、少女がさらにいじめられるかもしれない。

 それとも、「あ、さっきパーティ追放されてたやつじゃんか。そんな奴が入ってくんな!」とか言われたらどうしよう。


 それに、それに……。



  なんて頭の中とは裏腹に、とある光景を見た俺は無意識のうちに駆け出していた。



「なんか言えよ!」

「やめろ!!」



 そして、少女の前に間髪で滑り込む。


 ちょうど振り下ろされていた拳は、俺の手の中にすっぽりと収まった。



 そうなんだよ、メンバーの1人が少女のことを殴ろうとしてたんだ。

 暴力はダメじゃんか。

 

 特に、こんなか弱い少女を殴るのは。

 他のやつが許しても、俺は許さん。



「え……今、全力出したのに」

「ってか、誰だよ」

「誰でも良いだろ。でも、暴力は好かん」

「……ッチ。どのみち、お前はもうパーティ脱退だからな!」

「てか、待てよ。こいつ、さっきパーティー追い出されてたやつじゃんか!」

「マジだ! お前らお似合いじゃん!」

「え、でも、今俺の全力を……」

「まぐれだって。役立たず同士、パーティー組めよ! ソロ同士なら追放された後もすぐ組めるじゃん」



 ああ、俺が間に入ったせいで女の子がまたしても笑い者にされてしまってる。


 俺のことは良い。事実だから。

 そりゃあ、あんな人が多いところで騒ぎを起こせば、誰だって知ってるよな。


 知らないふりして歩いてたと思ってたけど、俺だって診て見ぬふりしながら内心楽しむに決まってる。



 女の子は泣いてないか?

 俺のせいで、対人恐怖症なんかになったらどうしよう。予想してたのに、俺ってば無責任に首突っ込みやがって。


 なんて思いつつ少女の様子を確認しようと、後ろを向いた時だった。



「ほら、役立たず同士〜」

「パーティーランクはEか?」

「ぶはは! アカデミー出たばかりでもEなんてしねぇぞ!」

「やめろよ、強いかもしれないだろ」

「そうだな、追放されるくらいだし」



 そんな嘲弄が聞こえてこないほど、俺は彼女へ釘付けになった。



 先ほどはちゃんと見てなかったが、白く艶のある腰まで伸びた髪、陶器のようにこれまた白い肌色、それに、真っ赤な瞳の少女が怯えた目でこちらを見ている。


 いや、この視線の先は俺じゃなくて仲間か。

 ……あれ、俺嫌われてないよな。もしかして、「こんなの自分でどうにかできるけど!」みたいに怒られたらどうしよう。俺ってスッゲー邪魔なことしちゃったよな。


 今のうちに謝っておくか。

 いやでも、その前に。


 外野がうるせぇ。



「なんか言えよ、クズ同士!」

「役立たず〜」

「ああ、いいさ。俺は、この子とパーティーを組む! んでもって、Sランク目指す! 人を馬鹿にするようなお前らなんかに負けねぇ」



 俺がそういうと、今まで嘲笑っていた奴らがピタッと止まった。

 なぜか顔色を真っ青にして仲間同士で顔を見合わせている。



 ……どうしたんだ?


 不思議なことにそのまま「あ、すみませんでした」とリーダー格のような奴が言って何処かへと走って消えてしまった。


 途中、「だから言っただろ、あいつの力強ぇって!」「あんな威圧感、耐えらんねぇよ」なんて聞こえたが、何の話ししてんだ?



「……あ」

「あ、ああ。なんだ、どうした?」



 そんなパーティーの背中をボーッと眺めていると、後ろから服の裾を引っ張られた。

 振り向くと、そこには俺を見上げている少女が。



 持っている杖は魔道士のものだが、服は僧侶みたいだな。

 ……って! 俺ってば、この子の意見も聞かずに勝手にパーティー組むなんて言っちまったぞ!? あわわ、謝んなきゃ!!



「あ、あの……す、すまん! さっきはああ言ったけど、別に俺とパーティー組まなくても良いからな。君にも選ぶ権利がある」

「……あっ、う」

「わっ、え……な、泣かないでくれ!」



 そう思って発言したのに、少女は泣きそうな顔して俺のこと見てやがる。

 というか、もしかして声がうまく出ないのか? まあ、俺が詮索することじゃあない。



 俺は結局、その少女を連れて川の水を飲みに行った。

 

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