ちょ、ちょっと気持ち良かっただけです

 んんんん???

 俺は今、混乱している。


 何に混乱しているかというと、目の前で重傷を負った男についてだ。

 よくもまあ、こんな傷で生きてたよなという混乱ではない。あのな、あのな……。



 なんっっっっだ、この光り輝くイケメンは!? え、顔面偏差値っ!?


 鼻筋が通ったはっきりとした顔立ち!

 これ以上整いようもない瞳の輝き!

 とにかく、顔のパーツ全てがこいつを「イケメン」と叫んでいる。


 ……ん? 瞳の輝き……?

 って、起きたぞ!?



「……君たちは?」

「え……あ…………」



 エンジュが治療してくれた人物が目を覚ました。

 周囲を警戒しつつ、腰につけた自分の武器を確認するあたり、冒険慣れしていることがわかる。


 いやしかし、このイケメン具合は詐欺じゃねえの!?

 なんだ、これは! 眩しいぞ……。


 俺は、ただただそのイケメンすぎる顔を無言で眺めていることしかできない。



「君が治してくれたの?」

「う!」

「そっか、ありがとう。そこのモンスターは……敵じゃないようだね。見たことがない種類だ」

『キュイー!』

「はは、元気だ。……君が、このパーティのリーダーかな。助けてくれて、ありがとう」

「いや、俺はリーダーなんかじゃ……」

「イ、ヴ! りーあー!」

『キュイキュイ、キュイー!』

「おまえら……」



 地面から上半身を起こしたイケメンは、……あ、ダメだ。直視できねぇ。

 なんでこいつ、こんな眩しいんだ? 訳わかんねぇ。



 まあ、とにかく地面から上半身を起こしたイケメンは、俺の方を向いてお礼を言ってきた。

 でも、俺はリーダーじゃない。それに、イケメンを治療したのはエンジュだ。ダブルベアを倒したのもエンジュ。俺は何もできなかった。


 だから、俺はリーダーじゃない。



 そう思ったのに、エンジュもアンバーも俺を見て「リーダーだ」と言ってくれている。



「ふんふん。君のステータスは、かなり高いね。MPなくてちゃんと見れないけど、オレより高そう」

「そういうの、わかるのか?」

「ああ。鑑定スキルを持ってるからね」

「鑑定スキルだと!?」



 おっと、これまたびっくりなことが起きたぞ。


 鑑定スキルとはな……。

 この国の人口が10億人くらいなんだが、その中で2、3人しか覚えていないような超超超絶珍しい……というか、都市伝説並みのスキルだ。

 それが今、都市伝説ではなくなった。すげぇ。え、握手しても良いか?


 そんな俺のはしゃぎようとは裏腹に、エンジュの顔色はサーッと青いものになっていく。



「……エンジュ、どうした?」

「え、う……あ」

「MP少なくなったよな。俺の少しあげようか」

「う、う……」

「遠慮するなって」



 MPが少なくなると、バッドステータスがつきやすくなるんだ。

 どんどん沈んでいくエンジュなんて、見たくねぇ。そう思った俺は、彼女に拒否されつつもMP譲渡をした。


 すると、観念したのか素直に受け取ってくれたよ。



 その間、イケメンは真剣な顔になってエンジュを見ている。


 ちょっと待てよ。

 もしかして、イケメン野郎は俺からエンジュを奪う気なのか!? 女の子でイケメンを嫌う奴はいねぇ。


 ああ、エンジュも「イヴみたいなフツメンより、イケメンさんの方が良いです。ごめんなさい」「貴方の顔、いつも思ってたけどブサメンですね」とか思ってたら……。ああ、どうしよう、どうしよう。



「イ、ヴ。イヴ、が、いい」

「……エンジュ」



 そんなパニック寸前の俺をエンジュが抱きしめてくれた。……ん? なんか俺のMPが回復してる気がするが……気のせいだな。

 エンジュの温かさが、俺の心に沁みているだけだ。


 そこに、アンバーも加わってよくわかんない状態になる。



『キュイー!』

「わっ! だから、こめかみの髪の毛を引っ張んなとあれほど!」

『キュイキュイキュイ〜!』

「いってぇ!? 頭突きィィ!!」

「ふはっ!! いいね、君たち。まずそこの白髪の子。オレは、君をどうこうするつもりはないから。怯えなくて良いよ」

「……う」

「なんだあ? エンジュをいじめる奴は、俺が許さねえぞ」

「命の恩人をいじめる訳ないよ! オレは、そこまで非情じゃない」

「なら良いが……。エンジュ、大丈夫か? さっきから、顔色が」

「う、う!」

「そうか。体調悪かったら、すぐ言えよ。俺がおぶって、医療施設まで走ってやる」



 そんなやりとりをしている中、完全に立ち上がったイケメンは笑いながらこっちを見てくる。

 どうやら、エンジュのことが気に入ったらしい。

 その手で、彼女の頭を優しく撫で上げている。


 エンジュもエンジュで、気に入ったらしい。

 今まで俺に向けていたようなうっとりとした顔で、その手を受け入れている。



 いや! やめろ、イケメン!

 お前は、いるだけで罪だ! 俺の楽しみを奪わないでくれ!



「イヴ、のが、いい。イヴ、すぅいー」

「あらら、オレはフラれたか」

『キュイ……』

「慰めてくれてるのかい? 優しいね、えっと……」

「アンバー。そいつの名前は、アンバーだ」



 でもまあ、悪い奴ではないことはわかる。

 むしろ、性格が良すぎる気がする。


 俺は、腕の中に収まったエンジュの存在に安堵しつつ、改めてイケメンを眺めた。

 こう言う時は、そうだな。



「とりあえず、自己紹介しようぜ。もう周囲に危険はないから」

「そうだね。まず、オレの名前は「イヴ!」」



 冒険者とダンジョンで遭遇した時にすること……それは、身分を明かすことだ。そう思って発言するも、途中で遠くから聞こえてきた声に遮られた。


 あの声は……。



「セリーヌ?」

「イヴ、お願い助けて! ジャンが死にそうなの!」

「なんだって!?」

「こっち来て!」

「あ、えっと、エンジュは「いく、イヴ、いく」」

「……ありがとう」

『キュイ』



 やってきたのは、先ほどどこかへ消えたセリーヌだった。

 血の気の引いた顔色で、両手を震わせながらやってきた彼女は、俺の服にしがみつく。さっきのことがあったから気まずかったんだが、どうやらそんなことを言っている暇はなさそうだ。


 俺が確認をすると、エンジュもついてきてくれるらしい。

 次いで、アンバーも。イケメンくんは……なんだか、消化しきれてないような顔してやがる。そんな顔も……イケメンだな。チクショウ。



「……オレも行こう」

「わりぃな。……セリーヌ案内してくれ」



 俺は、あれだけ大怪我を負っていたイケメンがサクサク歩いている様子に驚きつつ、セリーヌの背中を追った。

 エンジュにアンバー、イケメンもそれに続く。



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