貴方の心も、こうやって照らせたら


 セリーヌが案内してくれた場所は、イケメンが倒れていたところから少しだけ離れた鍾乳洞だった。


 水分を多く含んでいるようで、天井から水滴が落ちてくる。

 少しでも下を向けば、それが首にピチョンと当たるもんだから……。



「つべてっ!?」

「う!?」

『キュプィ!?』



 と、密集しながら歩いている俺とエンジュ、アンバーが同時に変な声を出す。

 いや、エンジュの声は可愛い。変じゃない。でも、アンバーは変だ。



「あはは、同じ反応してる」

「ちょっと! 何遊んでるのよ、ジャンは苦しんでるのに! 早くしてよ!」

「悪りぃ悪りぃ」



 その様子にイケメンが笑うと、セリーヌがキツい口調になる。

 遊んでるわけじゃねえんだが……説明がしにくいから、ここは素直に謝っておこう。



 夜になって気温が下がったのは……洞窟の中だから関係ないか。多分ここは、昼間でもひんやりしていると思う。

 洞窟って、色々思い出しちまうから好きじゃねぇんだよな。



 俺は、そんな気持ちを振り払うようにセリーヌについていく。

 ジャンが怪我をしているらしいが、大丈夫だろうか。あいつ、左足を軸にして動く癖あるから、身体のバランス悪りぃんだよな。そっちを怪我してねえと良いんだが……。



「君は、オレが入る前にこのパーティに居た……って認識で合ってる?」



 ジャンの心配をしていると、隣に並んできたイケメンが小声で話しかけてきた。


 ああ、そうか。

 メンバーでもねえのに、こうやって関わってるっておかしいもんな。


 もしかして、このイケメンはあまり関わって欲しくねえのか?

 そりゃあ、部外者が首を突っ込むなんて喜ばしいもんじゃねえよな。しかも、俺と同じ剣士だ。回復魔法がちゃんと使えるわけでもねえし……いやでも、セリーヌが呼んでるし。



「……ああ、そうだよ。だから、今は部外者だ」

「ふーん。心配するくらいなら、パーティなんか抜けなきゃ良いのに」

「あ、えっと……。俺が役立たずだから、パーティを追放されたんだ。俺から抜けたわけじゃない」

「は!?」

「みんなに迷惑ばかりかけて、危険に晒したから当然の結果だよ」

「……いや、えっと。君が居なきゃ、Sランクのドラゴンなんて倒す実力が「イヴ、誰と喋ってるのよ。早くきてよ」」



 案の定、イケメンと話しているとセリーヌが急かせてくる。

 足取りが緩んできたってことは、この辺にいるんだろうか。状況が把握できないから、やはりここはついていくしかない。


 せっかくこんなイケメンに出会ったんだから自己紹介くらいさせてくれと思うけど、きっとそれどころじゃないんだろうな。



 俺らは、1本道の鍾乳洞を真っ直ぐに進んでいく。

 後ろでは、気を利かせたエンジュが杖から光を出して照らしてくれているんだ。……彼女は、俺と違って優秀なやつだよな。

 そういや、アンバーはどこに行ったんだ? と、周囲を見渡していると、そもそも俺の肩に乗っているじゃんか。



「セリーヌは、俺の幼馴染なんだ。こうやってまた頼ってくれるのは、正直嬉しいよ」

「……まあ、君がそう言うなら良いや。オレのことは気にしないで好きに動いてくれて良いから」

「……?」



 なんだあ?

 言いたいことがあれば言えっての。


 セリーヌに聞こえないくらいの大きさで話すと、イケメンからは煮え切らない言葉が返ってくる。何が言いたいのかわからないのは、俺が馬鹿だからだろう。

 イケメンは、顔だけじゃなくて頭も良いのな。なんか、性格も良さそうだし。鑑定スキルも持っているし! 俺も、ひとつくらいあやかりたいぜ……。



「あぅー……」

「白い子は、オレと同意見と見たけど合ってる?」

「うー」

「それでも、この剣士についていくの?」

「う!」

「そっか」

「なんだ、なんの話だ?」



 ほらまた、エンジュと内緒話しやがって!

 今は、俺がエンジュにアピールしてる最中なんだから口説かないで欲しい。切実に。俺が負けるに決まってるんだから。



 でも、選ぶのはエンジュだ。俺じゃない。



「なんでもないよ。気配がするから、もうそろそろだと思う。早く行こうか」

「よくわかんねえが、お前本調子じゃねえんだから無理すんなよ。MPを使わないように」

「……ありがとう」



 そうやって考えれば考えるほど、気分が沈んでいく。


 これも、心配性ステータスのせいか? それとも、本来の俺の性格?

 わかんねえ。……わかんねえや。とりあえず走ろう。考えるのは、それからだって良い。早く、こんなジメジメしたところから出たいし。



 それに、エンジュにキノコを採ってやりたい。

 夜にしか採れないんじゃ、急いだ方が……いや、今は人命救助が最優先だ。

 エンジュだってアンバーだって、そこはわかってくれる。



「マリー、ディミトリ! イヴ連れてきたよ、ジャンの様子は?」

「セリーヌ! さっきまで意識があったんだけど……!?」

「え、後ろの人誰ですか?」

「俺の仲間だよ。それより、ジャンの様子は?」



 頭の中を整理していると、前を走っていたセリーヌが止まった。

 見ると、鍾乳洞の出っ張りに腰をおろす3人の姿が。暗くてよくわからなかったが、全員の服装がボロボロでかすり傷や切り傷が確認できる。


 きっと、ダブルベアにやられたんだろうな。



「え、仲間がいるって聞いてないけど……」

「良いじゃん。イヴだけでも連れ戻してさ」

「あの顔だけ剣士はどこに行ったんです?」

「さあ。さっき治療されてたけど、あれじゃ無理でしょ。その辺で死んでるんじゃないの?」

「なんだ、こそこそと。先にジャンの容態を確認させてくれ。動かしても大丈夫なら、そのまま医療機関に運ぶから」



 セリーヌたちが、ヒソヒソと何かを話している。けど、洞窟の中で反響しすぎてよく聞こえない。

 見た感じ、そんな重要なことを言っているわけではなさそうだ。


 俺は、アンバーを肩に乗せたままゆっくりと、動かないジャンへと歩み寄った。 

 その後ろでは、明かりを灯し続けてくれているエンジュと少し離れてイケメンが見守っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る