相変わらず、イケメンさんの幸運ステータスは10ですね


 ダブルベア亜種は、私とアンバーの繰り出した光属性と龍属性の攻撃によって戦闘不能にできました。


 アンバーは、思った以上に強いドラゴンのようです。

 あれだけ鋭い光を放っておきながら、本人はケロッとしていますから。


 それに、この子はまだ何か隠しているような気がします。

 心読みしても、読み込めない場所があるんです。でも、敵ではないことはわかっているので、安心して共に行動できます。



「うん、ばー、行くっ!」

『キュイー!!』



 私は、そんなアンバーと共にイヴの居る方へと走っていました。


 ちょうど同じ場所に、あのイケメンさんもいらっしゃるようで。

 あの血の量は、早く治療しないと死んでしまうでしょう。


 その奥にいる負傷者は……イヴが気付くまで放っておくつもりです。私が治す義理はないので。



 ああ、居ました居ました。

 ……あの淡い光は、回復魔法ですね。剣士は一切使えない技なのに、全くあの人は。

 きっと、必死に練習したのでしょう。


 でも、あの光だと止血もままならないと思います。

 集中もできていないし……ああ、あの幼馴染も近くに居たのですね。



「イ、ヴ!!!」

「……エンジュ?」



 とても難しい顔をしながら治療をしているイヴ……。

 でも、視線はあの幼馴染に向いています。何かお話をしていたのでしょう。

 しかし、私は貴女と戯れている時間はありません。



 私は、先程自身の腹部を治した上級回復魔法を唱えながら、イケメンさんに近づいていきます。



「……エンジュ」

「だ、誰!? え、モンスター!?」



 うるさいですねぇ。

 貴女とは関わり合いたくない人物なので、名乗りませんけど。

 アンバーも同じ気持ちらしく、その幼馴染の叫びを聞こえていないかのように振る舞っています。


 それにどうやら、魔力を分けてくださるようです。

 ありがとう、アンバー。



 魔道士で上級回復魔法を使える人は、数えるほどしかいません。

 しかし、ヒーラーであるそこのうるさい人なら使えるはずですよね?

 どうして、使わないのでしょう?


 先ほどから、自分の怪我の話しかしていないように感じます。



「なっ……。なんでぇ……。いつもイヴは私の言うことを聞いてくれるのに……。私の幼馴染なのにぃ」

「エンジュ、手伝えることないか?」

「うっ、う!」

「わかった。周囲に敵が居たら、俺に任せろ!」

「イヴの馬鹿! 役立たず!」


 

 と、幼馴染とやらは、捨て台詞を吐き散らしてどこかへ行ってしまいました。


 ああ、やっと去ってくださいました。

 これで静かになりましたね。治療に専念できそうです。



 私は、あのお仲間さん達の方へと走っていく幼馴染さんを横目で睨みつつ、イケメンさんの治療を続けます。

 もうすでに止血は済んでいるので、あとはどのくらい身体の再生ができるか……。

 相変わらず、イケメンさんは気絶していて起きません。



「……エンジュ、サンキュ」

「う?」

「何もできなくてごめんな」

「……ぅみゅ、う」



 そんなことないです。


 私は、今ほど言葉を欲したことはありません。

 貴方は誰よりも強い。勇敢でまっすぐで、その姿は勇者そのもの。

 だから、どうか悲観しないでください。


 そう、伝えたいのに。

 私は、それだけの言語を伝える術をもっていません。



 だからせめて、私は私のできることをしましょう。

 貴方を悲しませないように、そして、笑って過ごせるように。



 会ってまだ2日程度なのに、なぜこんなに彼を思うのでしょうか。

 今の私に、その答えはありません。



「……イヴ、い、いこ。いい、こ」

「エンジュ……」



 イケメンさんを治療したら、すぐにその頭を撫でてあげますから。


 だから、イケメンさん!

 ちゃんと起きてくださいね!



 私は、杖を地面に置き、聖女魔法である「メディカル・ティアラ」を唱えます。


 失った部分が蘇る、所謂禁忌魔法。

 見つかったら、王城に幽閉されるでしょう。


 でも、今は人の命の方を優先します。

 イヴが懸命に治そうとした、そして、私のせいで傷を負ったであろう彼の命を。



「……エンジュ、お前」

「……」

『キュイ』



 私が聖女魔法を発動させると、今まで周囲を警戒してくれていたイヴがこちらを向きました。

 大きく目を見開きながら、聖女魔法の光を見ています。


 気づかれたでしょうか。

 ……いえ、気づかれてませんね。心読みをすると、「やっぱり、エンジュはすげぇ」しか思ってないので。


 この人は、色々常識がバグっていますね。

 まあ、私にとっては好都合です。


 今はまだ、気づかないでいてください。

 もう少し、私は貴方と共に行動したいので。勝手でごめんなさい。



「…………ん」



 ほぼ傷口が塞がり、聖女魔法を回復魔法に切り替えた時。

 イケメンさんは、ゆっくりと瞼を開けました。


 体力を消耗しきっていますが、この様子ならもう命の危険はないでしょう。「オレ、どうしたんだ?」と自分の状況を確認しようとしています。

 冒険慣れしていますね。



 私は、起きあがろうとしている彼の状態を確認し、ホッと一息つきました。

 アンバーもイヴも、私と同じ気持ちのようです。


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