絶対王者は声を隠す〜パーティを追放された「無能」剣士と、異世界からやってきたチート級聖女の冒険記。欲しい仲間は、ツッコミ役。強さは既にSS級なので不要らしい〜

細木あすか

序章

パーティを追放されました


 晴れ渡る青空の下、鳥の囀りが耳に心地良く聞こえてくる。


 木々の間を通り抜けるそよ風も、変に不快になるようなものではなく、むしろ安心感を運んでくれていた。


 それに加え、城下町では人々の賑やかな声が響き俺に平和の文字を教えてくれるんだ。

 ああ、今日も良い日だ。



「お前、今日でパーティ抜けろ」

「……へ?」



 ……良い日、なはず。




***




 俺の名前は、イヴ・ミシェル。


 ……おい、誰だ!

 今、女みたいな名前だと言ったやつは出てこい!


 俺だって、自分の名前が好きじゃないんだよ。

 次言ったら、いや、思ったらこのロングソードで脳天かち割ってやるから覚悟しろ!



 なんて、ちょっと落ち着け。

 今、そんなことを言っている場合じゃない。


 今は、こっちに集中したほうが良い。実は俺、ピンチなんだ。



「お前、今日でパーティを抜けろ」

「……へ?」



 大型モンスターの討伐を終えた俺らパーティは、大きなギルドを持つ城下町の広場で立ち止まる。


 いつも通り報酬の分け前の話でもするのかと思いきや、リーダーであるタンク役のジャン・ニコラにそんなことを言われた。

 言っている意味がわからず「今日も報酬たくさんもらえるだろうな」なんて考えていたせいか、笑みを貼り付けたままの表情で聞き返す。


 すると、



「だから、お荷物だって言ってんの」

「私、ずっと我慢してたけど、もう耐えられない」

「私も」

「僕もずっと我慢してました。名前も女みたいで気持ち悪いし」

「……なん、で」



 と、パーティメンバーが次々と口を開いた。


 しかも、全員が全員、「やっと言えた」みたいな顔してやんの。

 心当たりがありすぎる俺は、サーッと血の気が引く感覚を味わうことしかできない。



 魔導士のマリー、アーチャーのディミトリ、それに、俺の幼馴染でもあるヒーラーのセリーヌまでもがジャンに同意するように首を縦に動かしている。


 広場を行き交う人々が、そんな俺らを横目に何事もなかったかのように歩いていくんだ。それが、なぜか俺には非情に映り込む。



「そりゃあ、何度も何度もオレらを危険な目に合わせてるんだから当たり前だろう」

「私、さっきの討伐で裾が焦げるかと思った」

「僕なんか、ドラゴンの吹いた火が髪の毛にかかりそうになりました。もう少しで禿げるところでしたよ」

「どうせ生えてくるって。それよりも、お母さんからもらった髪飾りを落として土がついちゃったのよ。高かったのに、どうしてくれるの?」

「……すまない」



 俺は、みんなの文句にぐうの音も出せずただただ謝ることしかできない。


 だって、俺がもう少し早く防御スキルを使っていればマリーとディミトリの近くに火の粉が降り注ぐことはなかったし、そもそも最初からロングソードでぶった斬っていればドラゴンが繰り出したブレスでセリーヌの髪飾りが落ちることもなかった。


 なのに俺ときたら、「隣に居るジャンに攻撃が当たってしまったらどうしよう」とか「何かの間違いでドラゴンの表皮が硬くなってロングソードが折れたらどうしよう。それが仲間に刺さったらどうしよう」なんて迷って、結局仲間を危険な目に合わせてしまったんだ。

 


 わかっているさ。

 俺が、心配性すぎることくらい。


 先日医療施設に飛び込んだら、「おたく、ステータスに心配性がついてますよ」って診断もらってるし。でも、自分じゃどうしようもできないんだ……。



「ってことで、次のソードマンは契約済みだから抜けて」

「次の剣士はイケメンなんだって?」

「楽しみ! 私、イケメン剣士だあいすき!」

「今度は僕たちをちゃんと守ってくれる騎士が良いですね」

「でもって、勇者パーティの仲間入りしようぜ! あと2つ大きな討伐すればSランクパーティに認定されるしな!」

「いいねいいね~。たくさんお金稼いで、宝石買いまくろう~」



 今まで仲間だと思っていた奴らは、俺抜きで楽しそうな会話を続けている。


 なんだこれ。

 俺も入りたいのに、なぜか目の前に分厚い壁があるように感じで何もできねえ。


 まあ、何かできたところで俺の発言が相手を傷つける可能性だってある。ここは、黙って聞いていよう。


 なんて、それすらダメだったらしい。

 棒立ちになって話を聞いていると、マリーの鋭い視線が飛んできた。



「……あんた、まだ居んの? 早くどっか行ったら?」

「そうだよ、もうメンバー削除の報告はギルドに提出済みだから」

「ジャンってば、優しい~。普通、本人にやらせるでしょう」

「だろ? 最後の餞別ってやつだよ」

「え、あ、……さっきの報酬は」



 パーティを抜けることに、異論はない。

 むしろ、こんな俺でごめんなくらいにしか思えない。



 でも、今行った討伐の報酬は話が別だと思うんだ。


 だから話しかけたのに、その瞬間、一気に空気が冷たくなった。



「はあ? 何言ってんだ、こいつ」

「今までの迷惑料でしょう」

「むしろ、少ないって。金目のものを置いてって欲しいくらい」

「でも、俺らは優しいから、これだけで勘弁してやるよ」

「……そうか。感謝する」



 討伐したドラゴンは、Sランクに匹敵するものだとギルドから言われ、いつもより多く報酬をもらったんだけどな。


 でも、仕方ないな。俺が悪いんだし。


 ここで揉めても後味が悪いし、武器や防具を取られないだけ優しいメンバーだよ。

 うん、そうだそうだ。



 俺は「まだ居たの?」みたいな顔してこっちを見る4人から逃げるように、広場を去った。


 晴れ渡った空なのに、なぜか雨風が吹き荒れているように心が寒い。

 けど、これもきっと気のせいだ。


 だってほら、小鳥があんな美しい声で鳴いているじゃないか。


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