絶対王者は声を隠す〜パーティを追放された「無能」剣士と、異世界からやってきたチート級聖女の冒険記。欲しい仲間は、ツッコミ役。強さは既にSS級なので不要らしい〜
グレイシャルスノウは森林破壊する時に使う魔法と思ってください
グレイシャルスノウは森林破壊する時に使う魔法と思ってください
森林ダンジョンは木々に遮られていることもあって、夜は他のダンジョンよりも暗闇が広がっている。
一寸先は闇……なんて言葉があるけど、それを体感させてくれるのが夜の森林ダンジョンなんだよな。
昼間は鳥の囀りが聞こえて小動物が木々の間を颯爽と駆け巡る感じで穏やかなんだが、夜は一変する。初心者に泊まり型のクエストが推奨されていないのは、そこにあるんだ。
それは、まあ良い。
今は、ダブルベア亜種を相手にする方が先だ。……正確には、この暗闇の中、近くにいるであろう負傷者を探すことが先、か。
エンジュの魔法攻撃は、強かった。
まるで閃光のごとく強い光で、ダブルベア亜種を差し続けている。
そのおかげか、奴の足取りが重くなりこちらには近づいてこない。しかし、かといって逃げる様子はないから、攻撃対象として認識はされているのだろう。
「……特殊シールド固定! エンジュ、ちょっと動くぞ! どこかに怪我した奴がいるかもしんねえ」
「う、う!」
「アンバー、エンジュのこと頼んだ!」
『キュイー!』
アンバーはモンスターなのに、なぜか俺らのことを手伝ってくれるらしい。一飯の恩というやつか。だとすれば、案外モンスターも義理堅いんだな。さっきのサラマンデルも枇杷の実をあげたら懐いてくれたし、モンスターって可愛いのかもしれない。
けど、目の前に居るダブルベア亜種は違う。
なんというか、サラマンデルとは違った雰囲気がある。夜だからだとか、口元が血塗れだからとか、そんな次元じゃない。
俺は、エンジュたちを視界に入れつつ、周囲に負傷者が居ないのか確認する。
シールドを展開しているせいか、MPの消費が半端ない。
これは、急いで確認してエンジュたちの方へ戻った方が良い。じゃないと、シールドが切れちまう。
「誰か居ないか?」
幸い、エンジュの魔法で周囲はある程度明るくなっている。木の枝に躓かなきゃ、簡単に探せそうだ。
***
ダブルベア亜種に杖を向けつつも、私は目の前に展開し続けている特殊シールドを分析しています。
そのくらいの余裕はありますし、こんな大技を確認せずなんて私の冒険魂が後悔しそうなんです。
どうやらこれは、展開した人のMPを吸い取って存在しているようですね。
ということは、イヴのMPがどんどん削られているってこと。これは、急がないといけません。
MPがゼロになると、マイナスステータスが寄ってきますし。
……ん? マイナス、ステータス……いえ、今は目の前の敵に集中しましょう。
ダブルベアは炎魔法に弱いですが、亜種は氷魔法に弱いです。
なので、中級魔法の『アイスエッジ』と『リフリジレーション』でいけるでしょう。
これでいけなければ上級魔法の『グレイシャルスノウ』、ダメなら聖女魔法の……いえ、そんなお強いモンスターでもないから大丈夫かと。
私は杖を真っ直ぐに構え標的を捉えます。
力が強い分、ちゃんと狙わないと周囲へ焼け野原並みの被害を出してしまいますから。
隣では、アンバーが援護してくれるそうです。
それに加え、イヴの魔法防御ダウンにこのシールド。……負ける気がしません。
『キュー!』
「あ、んばー、あーとぅ」
『キュー!!』
「イヴ、まおる、ま、も、う」
私は、言葉を発し自身を強化しました。
彼を「守る」、と。
それだけで、身体が熱を帯びMPの自然回復量が上昇します。
これが、『絶対王者』の力です。
言葉を発するだけでなんの根拠もない自信が生まれ、それがステータスに影響する……こういう使い方をするのであれば、お母様もお許しくださるでしょう。
そして、そのままの勢いで狙いを定めてアイスエッジをかまします。
詠唱は……したほうが下手になるので、無言で行かせてください!
「やあっ!」
キンッと金属のような音が響き、杖の先から出た鋭い氷柱が猛スピードで敵を捉えます。
そのまま身体を地面に固定できたらよかったのですが……まあ、そう簡単に行かないのはわかっていました。想定内です。
私は、氷柱を避けつつこちらに突進してくるダブルベアを、冷却魔法『リフリジレーション』で大人しくさせました。
そこに、アンバーが飛び込んで魔法を……あの光は、ドラゴン特有の光属性魔法ですね。ああ、こんな近くで見れるなんて。美しい光です。
今、その光魔法は私の氷魔法の光と混ざり合い、氷柱がより鋭くなってダブルベアへと解き放たれて行きました。
ザンッと大きな衝撃音が響いたと思えば、すぐにダブルベアの腹部から出血が確認できます。あれは、致命傷を与えたでしょう。
どうやら、アンバーは私との魔法の相性が良いようです。
『キュイ』
「うん、ばー、あーとぅ」
『キュイキィ!』
「う!」
はいはい、イヴに「アンバーがカッコ良かった」と伝えておきましょう。
伝わればの話ですが……。
にしても、なぜイヴは私のカタコトな話し方とジェスチャーだけで状況を察してくれるのでしょうか。
心読みをしているわけでもないのに、いつもいつも私のことを理解してくれて……。あんなこと、今まで一緒に居たパーティメンバーはできなかったのに。
私は、イヴが優しくしてくれる度に、あの敵の口周りについている血の持ち主たちが憎くなります。
どれだけ、彼をコキ使ったのでしょうか。
あんなマイナスステータスが付くほど、MP消費をさせて無理を強要して。それでいて、彼に浴びせる罵声の数々。
剣士はMPなんてほとんどないはずなのに、イヴにはたくさんあったから。
きっと、今まで幾度となくMPを使ってきた証拠です。レベルアップしたからよかった、で済む範疇を軽く超えています。
『キュイ! キュイ!』
「う? グッ!?」
いけません!
別のことを考えていた私は、動きが鈍ってしまいダブルベアの攻撃を食らってしまいました。
かろうじて両足で踏ん張り、倒れることはなかったですがこれは結構痛いですね。
鋭いかまいたちのような風属性の攻撃は、真っ直ぐに私の腹部へ傷をつけてきました。
その部分に、ジワッと温かい液体が滴るのを感じます。どうやら、ダブルベアは傷ついた箇所と同じ場所を狙うようです。
今まではサクッとグレイシャルスノウを一発かまして倒していたので知りませんでした。
きっと、イヴのシールドがなければ身体が半分こになっていたでしょう。
そうですか、このような攻撃もできるのですね。だったら……。
「エンジュ、つお、い。ダブウ、ベアよい、つおい」
ここは、回復よりも攻撃に徹します!
この程度の傷なら、後からいくらでも治せますから!
私は、『絶対王者』を発動させながら、迫り来るダブルベアに向かって杖を向けます。
グレイシャルスノウは……イヴたちの居るところも吹っ飛んでしまうので、今回は封印させていただきますっ!
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