それ、確か10年前くらいに消滅した伝説のタンク技です……。お祖父様何者?


「う! う!」

「な、なんだよエンジュ。急がなくても、キノコは逃げねえっての」

『キュイー!』

「いだだだ! わーった、わーったからもみあげは引っ張らんでくれ!」



 回復して毒気の抜けたサラマンデルと遊んでいると、急にエンジュとアンバーがはしゃぎだした。


 どうやら、まだ腹が減ってるらしい。

 聞けば、あっちにキノコが生えているんだと。アンバーが先に騒ぎ出したから、きっと野生のカンってやつか?

 だとしたら、相当便利なスキルじゃね?



 でも、もみあげをいちいち引っ張ってくるのは勘弁して欲しい。

 うちの家系は、髪が薄いんだ。禿げたら、エンジュに嫌われちまうだろう!



 とりあえず髪を守るべく、俺は地面に転がしたテントの骨を拾いケータイポーチに入れた。

 んでもって、急かすエンジュの後に続く。



「イヴ、はし、る!」

「おう! じゃあ、アンバーが道案内してくれるか?」

『キュイ!』

「じゃあ、エンジュは俺が!」

「アゥ!?」

「こっちの方が早いだろ? ちゃんと捕まってろよ!」

「う、う……」

『キュイ……』

「ほらアンバー、幻のキノコを採りに行こうぜ!」



 そう言って俺は、エンジュを抱き上げた。正しくは、肩車か。

 懐かしいなあ。妹をこうやって乗せて、よく草原を駆け回っていたぜ。


 ……にしても、エンジュは軽すぎる。

 こうなったら、今から採りに行くキノコでスペシャル料理作ってやるか! もっと食って筋肉つけなきゃ、体力が落ちるだろう。



 でも、なぜか肩車をした瞬間、アンバーがなんとも言えない表情になって俺の肩を眺めてきたんだ。……どうしたんだ?


 まあ、今は良いや。

 それより、夜しか生えないキノコなんてあったかな? 朝にしか採れないリーンキノコなら知ってっけど……。


 俺は、どんなキノコ料理を作ってやろうか考えつつ、アンバーの背中を追う。



***



 しかし、キノコを見つける前に、とてつもないレア度の高いモンスターに遭遇してしまった。

 そのモンスターの名前は、ダブルベア亜種。


 ダブルベアっつったら、この森林ダンジョンの大ボスなんだがこれは亜種だ。所謂、希少種ってやつ。

 ギルドでは、そんな希少種も危険種と位置付けて討伐NG、捕獲OKと明記している。だから、厄介だがさっきのサラマンデルと同様倒したらダメなんだよ。



 しかも、危険種の中でも亜種ははちゃめちゃに強い。

 どのくらい強いかって、俺の父ちゃんより強い。……あん? 基準がわかんねえって? とりあえず強いってことだけ覚えておいてくれれば良い。後で父ちゃんに会わせてやっから。



「エンジュ、降ろすから後ろに隠れてくれ! アンバー、気をつけろ。怪我すんなよ!」

「う!」

『キュイ!』

「ちょ、ちょ! 2人とも、俺の後ろに行けっての!」

「う!」

『キュイ!』

「ったく……」



 どうやら、エンジュもアンバーもダブルベアの特性を理解しているらしい。


 この敵は、物理よりも魔法攻撃に弱い。しかも、物理防御が結構高いから、俺が攻撃してもその半分もダメージを食らわないだろう。

 とはいえ、こいつなら2回瀕死にさせたことあるし、俺ならいけるんだけどな……。でも、2人のやる気を削ぐのは気が引ける。だから、ここは援護に回らせてもらうぜ!



「特殊シールド展開!」

「…………えぅ」

『…………キュイ』

「魔法防御ダウン!」

「……」

『……』

「……?」



 2人の気合いを受け取った俺がMP消費技を詠唱すると、なぜか呆れ顔をした彼女たち。

 ……もしかして、余計だったか?


 でも、ダブルベア亜種の攻撃は重いから、少しでも役に立てると思うんだけど……。

 いや、エンジュにはエンジュの、アンバーにはアンバーの戦い方があるだろうに俺ってば! ああ、どうしよう。どうしよう。


 なんて思いながら、術式を解除させようとしたところ、



「イヴ、あり、が……とう」

『キュイ! キュイー!』

「……エンジュ。……アンバー」



 と、俺に向かって微笑んできた。その表情は、パニックになりそうだった俺の心を落ち着かせてくれるのに十分だった。


 ……そうだな。俺には俺の、できることをしよう。



「よっしゃ、今回は援護に徹するぜ! 怪我、MP消費気にせず戦ってくれ!」

「おう!」

『キュイ!』



 心を入れ替えた俺は、両手を前に出し防御シールドの強化を始める。


 この防御シールドは、俺のじっちゃんに教えてもらったやつなんだ。

 こっちの攻撃は通すけど、敵の攻撃を半減してくれるって代物でな。


 じっちゃんの家系に代々伝わる秘伝の技ってやつらしい。

 教えてもらった時は、胸が熱くなったもんだ。



 そんなシールドを展開しつつ敵の魔法防御を下げていると、早速エンジュが杖を前に出し攻撃を開始した。

 その魔法に照らされ、俺らは驚愕の事実を知ることになる。


 ……ダブルベアの口元に、ベッタリと真っ赤な液体が付着していることに気づいたんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る