封印が解けて兎姫復活 鬼を圧倒したけれど今度は俺の番?

「この程度で危機に陥るとは、妾を封じた者も大した事はないようじゃな」


 光り輝く舞から声がした。

 舞の身体は浮き上がり、身につけていた衣装が光の粒となって離れて行き、渦を描いた後、再び身体に集まり、新たな形を作り始める。


「この程度の鬼相手に苦戦するとは」


 新たな衣装を纏った身体の主が呆れ声を上げる。

 妖しい輝きを放つエナメル質の表面を持つショルダーオフの黒いハイレグ。

 胸元から下がり背中丸出しの開口部は縁取りされたファーで強調されている。

 二の腕から伸びる黒い長手袋の袖口もファーが付いておりアクセントに。

 切れ込みの深いハイレグカットから伸びる足は黒タイツが包み、膝丈まである長い黒のハイヒールロングブーツに入って行く。

 肩から左右に大きく張り出した金縁シースルーの陣羽織は威嚇的だが、肩と腋を露わにしており扇情的だ。

 首元の留め金からは表黒裏赤のマントが伸び端にはファーが付いている。


「情けないのう。小僧」


 目尻が下がり、おっとりとした印象を与えていた大きな瞳は、細く鋭くなり、見下すような光を放っている

 長い前髪とポニーテールで束ねられた後ろ髪の分け目から頭からは挑発的に飛び出す長く白い耳が伸びる。


「兎姫」


 舞の身体の中に封印されていた妖魔、兎姫の封印が解けて舞の身体を乗っ取ったのだ。


「舞をどうした」

「精気を使い尽くして封印を維持できなくなったのじゃ。今は妾がこの身体を支配しておる。しかし、身体から抜け出すのは無理そうじゃな」


 封印を解除し身体を乗っ取った兎姫だが、完全ではなく舞の身体が持つ力により、完全に離脱する事は出来なかった。


「力も制限されておるのう。まあ、それでもある程度は出せる。それに」


 兎姫は舞の身体を捻り、スタイルを確認しつつ呟く。

 頭を振って揺れる艶やかな黒髪が降り落ちる様子に満足すると、深い谷間を作る豊満な胸をスーツの上から左手で揉み込み感触を堪能した。


「この身体も中々じゃ」

「があっ」


 舞の身体を触って満足している兎姫に興奮した鬼が襲い掛かる。


「妾を襲う気か?」


 迫ってくる鬼に兎姫はすぐに反応し、右手に精気を集めると檜扇を作り出して開く。


「不埒者め!」


 黒光りするロンググローブに包まれた腕を伸ばし、檜扇を鬼に向けると光線を放った。


「ぎゃあっ」


 突然放たれた光線をまともに浴びた鬼は怯んだ。

 光線は一撃では終わらなかった。

 二本目、四本目、七本目と数本の光線を兎姫は鬼に浴びせる。


「ぎゃああっっ」


 身体に光線を浴び、打ち抜かれ、腕や足を切り落とされた鬼は地面に倒れた。

 だが兎姫の攻撃は終わらない。


「見苦しいのう」


 冷酷な視線を鬼に浴びせつつ、兎姫は檜扇の下に左手を添える。

 檜扇と左手の間に精気を集め大きな光球を生み出した。


「戦いに負けたのじゃから、潔く」


 嘲るような言葉を手負いの鬼に、見下すように兎姫は言い放つ。

 そして黒光りするブーツに包まれた両脚を広げ高々と腕を上げ、光球を掲げると、鬼に向かって振り下ろした。


「消え失せよ!」


 兎姫の声と共に放たれた光球は鬼に向かう。

 満身創痍の鬼は避けられず光球が直撃。

 巨大な爆発を起こした。


「大した鬼ではなかったのお」


 爆発で出来た大きなクレーターを兎姫は目を細めて笑っていた。


「さて、其方じゃが」


 兎姫は剣司の方へ向き直った。


「剣司だ」


 嘲笑混じりの視線から逸らすことなく剣司はにらみ返した。


「そう、怖い顔をするでない」


 兎姫は剣司に妖艶な笑みを向けて言う。


「其方を傷つけるつもりはない」


「何故だ?」


 舞が決して見せない艶やかな笑みの誘惑に耐えつつ、剣司は尋ねた。


「其方の精気は美味じゃ。妾に従い、精気を寄越すのじゃ」


「断る。そんな事をすれば、舞の身体をバラバラにして飛び出す気なのだろう」


「勿論じゃろう。妾を縛るこの身体からはおさらばしたい。勿論、その前に精気の礼はこの身体でタップリとしてやるぞ」


 兎姫は切れ長の吊り目で剣司を流し目で見つめる。

 両腕で胸を抱え、谷間を見せて兎姫は剣司を誘惑した。


「断る!」


 妖艶な兎姫の姿に剣司は顔を赤らめながら断り命令する。


「大人しく封印されて舞を返せ」

「断る」


 簡潔に兎姫は言った。


「封印されるなど妾はまっぴらじゃ!」


 胸を張って大声で断言すると共に、光球を作り出し腕を振って剣司に投げつけた。


「くっ」


 剣司は駆け出し光球を避けた。


「ほう、避けるか! だが、いつまで続くかのう!」


 兎姫は檜扇を剣司に向けると光線を乱射する。

 無数の光線が降り注ぐ中、剣司は光線を躱していく。


「くっ、キツい」


 だが、舞の身体強化がないため、持久力が低下していた。

 息が上がり、脚がもつれ始める。


「ほれほれ、足が遅くなっておるぞ」

「くっ」


 剣司は兎姫に向かって突っ込んだ。


「正面から来るとは愚かな!」


 向かってくる剣司に向かって兎姫は光球を打ち出した。

 十分に引きつけて放ったので剣司は避けざるを得なかった。

 だが、ただ避ける気はなかった。


「はっ」


 すれ違い様に後ろに刀を振るった。

 少しでも兎姫にダメージを与えたかった。

 出来れば、光線や光球を出す檜扇を切り裂き攻撃手段を奪いたかった。

 だが、不安定な姿勢で放った一閃は別の箇所を切り裂いた。

 結果を見るために振り向くと、バニースーツのハイレグ部分、その頂点と背中の開口部の間の布に切れ込みが入り、割けた。

 スーツの下の黒タイツにも切り裂かれ、くびれた腰とお尻の一部の肌が曝される。


「きゃっ」


 兎姫の可愛らしい悲鳴と共に剣司は視線を逸らした。


「隙ありじゃ」


 その瞬間を兎姫は見逃さず、口元に笑みを浮かべると衣装が破れるのも気にせず剣司に向かって光球を放った。

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