封印が解かれ兎姫顕現 しかも新たな強敵が

 先ほどまで垂れ目のおっとりとした雰囲気の美少女だった舞の目つきは、険のある釣り上がり気味の細い切れ目になり、嘲笑うようでいて見る者を引きつける笑みを口元に浮かべていた。

 舞の身体に封印されている妖魔兎姫。

 その封印が解けて、兎姫は舞の身体を乗っ取り、舞の放つ雰囲気を妖艶なものに変えていた。


「舞をどうしたんだ」


「人喰い澱を封印するのに精気を使いすぎての。妾の中に眠っておる」


 胸のあたりに手を当てて兎姫は説明した。


「今すぐ、俺とキスをして舞を返せ」


 兎姫を再び封印し舞を取り戻すには剣司が兎姫にキスして精気を送り込み、再封印するしかなかった。


「構わぬが、ここは嫌じゃな」


「なんで」


「狭くて陰気くさい」


 狭い路地裏を見て兎姫は嫌がる。


「そんなことを言っている場合か」


 舞も心配だが、学校の時間も迫っている。

 早く登校しないと遅刻してしまい拙い。


「ふふふ」


 焦る剣司を見て、兎姫は妖艶に笑うと立ち上がり通学路へ走る。


「待て!」


 剣司は慌てて追いかける。

 途中で刀を隠し通学路の真ん中に立った舞、いや舞の身体を操る兎姫に迫る。


「早く、代わってくれ」


 間もなく始業時間だ。遅刻は避けたくて剣司は兎姫に迫る。


「構わぬ」


 意外にも素直に応じた兎姫に、剣司は安堵する。


「じゃあ、裏路地へ」


「ここでせよ」


「はあっ」


 兎姫の要求に剣司は素っ頓狂な声を上げた。


「気は確かか」


 今いるのは通学路のど真ん中、始業時間が迫っているため、登校途中の生徒が多い。

 しかも同級生さえいる中、キスをするなど危険すぎる。


「ならば、このまま登校じゃな」


「行かせるわけないだろう」


 スタスタと学校へ向かおうとする兎姫を剣司は腕を掴んで止めた。

 直後、予想外の行動を起こす


「きゃああああっっっっ」


 剣司が腕を掴んだ瞬間、兎姫が、か弱い少女のような悲鳴を上げた。


「なっ」


 何時も高飛車で傲慢な言動をとる兎姫が、悲鳴を上げるなど剣司は思い至ることもなかった。

 何時も自信たっぷりで、逆らう者は誰であろうと実力で排除する気高き存在。

 妖魔であってもその行動に少し惹かれるところがあり、それが兎姫だと剣司は思っていた。

 だから、兎姫の放った悲鳴は予想外だった。


「どうしたんだ!」


 通学路の見回りに来ていた高校の先生がやって来た。


「突然腕を掴まれて路地裏に連れ込まれそうになったのじゃ」

「いっ」


 兎姫に指を指されて言われた剣司は驚いた。

 事実とは違うし、それ以上に、乗っ取られているとはいえ、舞に襲われたと糾弾された事が剣司には一番のショックだった。


「うちの生徒か、一寸来て貰おうか」


「いや、違う!」


「何処が違うんだ。先ずはその手を放せ」


 剣司は弁解するが、拘束するため腕を掴んでいては、言い訳出来ない。

 仕方なく剣司は舞の手を放す。


「嫌がる女子を路地裏に連れ込んだのか?」


「違う!」


 剣司は否定するが、教師は聞く耳を持たなかった。

 お同じ学校の教師でも学年が違うと接点がない。

 面識のない先生だったので剣司の言い分は聞いて貰えず、舞の間に入り立ち塞がる。


「って、兎姫が、舞が逃げる」


 剣司が教師に抑えられている隙に、兎姫は舌を出して、逃げていった。


「待て」


「待つのはお前だ」


 追いかけようとする剣司だったが、教師に阻まれた。


「怖がって逃げたとはいえ、女子の腕を掴んで引きずり込んだことに変わりはない」


「違うって」


「言い訳は後で聞かせて貰う」


「話を聞いてくれ!」


 剣司は必死に弁解するが、教師は聞く耳を持たず、剣司は学校へ引っ張り出されて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る