兎姫の気まぐれ いじめられっ子を助ける
「ほほほっ、いい気味じゃ」
先生に連れて行かれる剣司を見て兎姫は高笑いをした。
「妾とすぐにキスをしたくないとは、なんとも無礼なヤツじゃ」
慌誘ったのになびきもしなかった剣司へ怒りを漏らす兎姫。
仕返しに悲鳴を上げて、教師に囲まれるように仕向け、慌てふためく様を見て嘲笑ったことで溜飲は下がったが、まだ苛つきは残っていた。
「うん?」
その時、路地裏の奥から人の声がしてきた。
「おい、井上、奢ってくれよ」
気晴らしのつもりで覗いてみると、数人の男子が一人の気弱そうな男子を囲んでいる。
「い、嫌だよ」
「何で嫌なんだよ。俺たち友達だろうが」
「カツアゲか、この時勢にもあるのか」
古より弱い者から金品を奪うところを兎姫は見てきた。
何千回も。
千年以上生きているため、見ても来たし、された覚えもあった。
「ああ、なんだ。友人の願いを断るのか」
「嫌だよ」
弱々しい響きが玉兎の耳にも入ってくる。
無視しても良かったが、囲んでいる男共の声が耳障りだったので、時は彼らの前に出て行った。
「おい! お主ら!」
「何だ。俺たちは友人と話していただけだぞ」
突然現れた自分達を止めようとする存在に、いじめっ子達は、睨み付ける。
だが、それが美少女である事を知り、下品な表情になる。
「それともお前が遊んでくれるのか?」
全身を舐めるように兎姫の身体へ視線を向け、いじめっ子達は尋ねる。
「ほほほっ、遊んで欲しいのか。妾で良ければ遊んでやるぞ」
「じゃあ遠慮無く」
いじめっ子の一人が、兎姫の前に行き胸をわしづかみにしようとする。
だが伸びてきた腕を、兎姫は掴み捻り上げると後ろに投げ飛ばし、壁に叩き付けた。
「げはっ」
「ほほほっ、人間なのにカエルのような鳴き声を上げるのう」
地面に倒れる男子の姿を兎姫は面白そうに笑う。
「テメエっ! 何しやがる!」
「遊んでやったのじゃ。妾が投げ飛ばし無様な醜態を見せる遊びじゃろう。さあ、遊んでやるぞ、童共」
「舐めやがって!」
いじめっ子達は兎姫に襲い掛かった。
「ほほほっ、良いぞ。纏めて遊んでやろう」
兎姫は襲い掛かってくる、いじめっ子達を全てあしらった。
腕を掴み相手の勢いを利用して投げ飛ばす。
「ぐはっ」
「ぎゃあっ」
「ぐへっ」
壁に、兎姫に仲間に放り投げ叩き潰した。
「ほほほっ、面白い鳴き声を出すのう」
一分もしないうちに、いじめっ子達は兎姫によって地面に投げ落とされた。
「どうじゃ? 楽しく遊べたかのう? 足りぬのであれば、もっと遊んでやるぞ」
「お、覚えていろ!」
いじめっ子達は捨て台詞を言って逃げていった。
「ふん、他愛のない連中じゃ」
腰に手を当て見送る兎姫だったが、逃げる姿が小物で嘲笑う気にもなれなかった。
「あ、あの」
「うん?」
ポニーテールを掻き上げていると後ろから兎姫を呼ぶ声がした。
いじめられていた井上だった。
「なんじゃ?」
兎姫は切れ長の瞳を井上に向けた。
切れ長の瞳は妖艶で、恐ろしいが妖艶で井上は、背筋が凍りつつも呆けたように魅入られた。
そのため、暫く放心状態だったが、自分がしたいことを思い出して言った。
「あ、ありがとうございます。助けて貰って助かりました」
「う、うむ」
緊張して早口だったが、気持ちの籠もった感謝の言葉に、兎姫は気分を良くした。
「中々殊勝な心がけじゃな。礼の一つも言わぬどこぞのろくでなしよりよい」
「はい?」
「いや、こちらの話じゃ。じゃが、其方も良くないぞ」
「え?」
「あのような連中を自力で除けなければ、男の子としてふがいない」
「そ、そりゃ、僕だって倒したいですけど、連中の方が強いし」
「その時点で負けじゃ。連中に勝とうという気持ちがない時点で、負け犬決定じゃ」
「で、でも」
「空元気でも良い。兎に角強気で行け」
「で、でも……」
「返事は、はいじゃ」
井上は反論しようとしたが、真っ直ぐな兎姫の瞳に射貫かれて黙り込み、言われるがまま答えた。
「は、はい……」
「よろしい」
半ば強制だったが、言い切ったあと、井上の心は晴れやかだった。
兎姫のキツいが強い真っ直ぐな目が笑って褒めてくれた事も嬉しくて、井上の気分は高揚した。
「いやがったぞ!」
だが、そこに先ほどのいじめっ子達が仲間を集めて戻ってきた。
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