兎姫の与えた力

「逃げんじゃねえぞ、落とし前はたっぷりして貰うからな」


 兎姫に撃退された、いじめっ子達は仲間を集めて十人前後で二人を囲んだ。


「懲りない連中じゃな」


 面倒くさいので光球で吹き飛ばそう、と兎姫が考えていると井上が前に出てきた。


「この人に触るな! 僕が相手だ」


 井上の言葉にいじめっ子達は一瞬防戦としたが、次の瞬間爆笑した。


「おい、井上の奴が粋がっているぜ」


「傑作」


「弱いくせにかかってこいだって」


 いじめの対象が急に強気になったことを嘲笑っていた。


「五月蠅い! この人に言われたんだ! 男は強気に行けって!」


「ほう、少しは見込みがあるようじゃな」


 ただ一人兎姫だけは、井上が自分の言葉を素直に聴いて実行に移したことに感心し満足そうに笑った。


「女の言ったことを信じているおめでたい奴だな」


 そして、自分の事も侮辱した、いじめっ子達に苛立った。


「よし、井上。妾が力を貸そう」


「いや、危険ですから。いっ」


 せめて盾になろうと兎姫の前に出ていた井上だったが、顎を掴まれ顔を後ろに向けさせられる。


「え、えっ」


 兎姫の端整な顔立ち、長いマツゲの下に切れ長の目には吸い込まれそうな程、黒い瞳が輝きが、目の前に現れる。

 ほんのりピンク色の美しい唇で囲まれた口の奥には、生々しく動く舌が見える。

 その顔が、近づき、唇同士が触れ合った。


「!」


 突然のキスに井上は、驚き、慌てて離れようとするが、顎を掴む兎姫の手が柔らかいのに万力のように力強く固定され逃げられ無かったあ。

 井上の抵抗も兎姫の舌が井上の口の中に入ってきて撫で回すと、抵抗の気力も失われた。

 そして兎姫から注ぎ込まれる温かいものに意識が朦朧とした。


「って、テメエら」


 勿論、いじめっ子達も驚いた。


「見せつけてんじゃねえ!」


 女に振られたばかりで苛立っていた、いじめっ子の一人が井上に殴りかかった。

 拳が井上に触れようとした瞬間、その拳は井上が挙げた手によって止まった。


「なっ」


 完全に死角から攻撃したのに止められたことに、そして、今まで弱かった井上の力に、いじめっ子は驚いた。


「妾が与えてやった力、使えるようじゃな」


「ええ」


 キスを終え、井上に微笑みかけた兎姫は、妖艶に笑いながら尋ねると、井上は虚ろな瞳を兎姫に向けながら答えた。


「うむ、妾に魅入られたようじゃが、多少は使えるじゃろう。どれ、こやつらを片付けよ」


「はい」


「何ふざけたたことを、ぐへっ!」


 腕をつかまれ喚く、いじめっ子に井上の拳が炸裂し、吹き飛んだ。

 身長を遙かに上回る高さに身体が上がり、地面に落下する。


「て、てめえ! そんなことしてタダじゃぐぶっ!」


 仲間がやられた事に動揺した一人が凄むが、井上が急接近してパンチを繰り出し吹き飛ばす。

 残りのいじめっ子にも襲い掛かっていく。


「うむ、妾の精気が良い働きをしたようじゃ」


 唇を指先でなぞりながら兎姫は満足そうに頷く

 井上に自分の精気をキスで分け与えて、身体能力を強化したのだ。

 常人の数倍の能力を発揮しており、ただの高校生など簡単に殴り飛ばせる。

 一分もせずに十人前後いた、いじめっ子は地面に倒れた。


「ひ、ひいっ、げはっ!」


 遂に最後の一人が殴られ地面に倒れた。


「うむ、流石我が僕じゃ。じゃが、少々醜いのう」


 地面に転がる、いじめっ子達を見て兎姫は酷薄な笑みを浮かべる。


「精気も不味そうじゃし、一つ派手に散らしてくれるか。頭を踏み潰せ」


 このところ封印されっぱなしでストレスが溜まっていた兎姫は命じた。


「はい」


 操られている井上は躊躇なく足を踏み上げ、いじめっ子の一人の頭を砕こうと振り下ろし、激しい音が響いた。

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