兎姫勝利 精気を吸われる剣司だが

「ほっほっほっ、さすがのそなたも気絶したか」


 気絶して動かなくなった剣司にヒールを鳴らしながら近づいた兎姫は、嘲りつつも褒め称えた。


「妾の攻撃を受け止め、弾き飛ばすとは中々やるよのう」


 剣司の脇に来ると褒めると共にかがみ込んで剣司を抱き寄せる。


「ふむ、傷はなさそうじゃな」


 剣司に傷がないことに兎姫は、安堵するような声を漏らす。


「このまま、一気に精気を吸い取ってくれる。気絶していれば舞とかいうこの身体の持ち主の意識に精気が流れ込むことはあるまい」


 意識があるままだと身体の主である舞を剣司が意識して、舞の方に精気を注がれ力を回復し、兎姫は封印されてしまう。

 封印を避けるため、兎姫だけが精気を補充する必要があった。

 そこで剣司を気絶した状態にして吸い取ろうと兎姫は考えた。


「さて、いただくとするとしよう」


 兎姫はエナメル質のグローブで包まれた両手で気絶したままの剣司の顔を挟み近づける。

 妖しい黒光りを放つ細い指で、顔の形を確かめるように愛しく撫でながら、剣司の顎にかけ、ゆっくりと引き寄せる。

 自分のモノだと言わんばかりに、剣司の顔を上から下まで吐息が掛かるほどの距離で舐め回すように視線を這わせる。

 剣司の思ったより長い睫や綺麗な肌を愛でつつ、唇同士を近づけ、ふれあわせた。


「うっ」


 一瞬、剣司がうめき声を上げるがすぐに収まった。

 兎姫が小さな舌を出し剣司の唇を舐め上げる。

 撫でられる感触の心地よさに、自然と剣司は口を開け、兎姫を受け入れる。

 兎姫の舌は大胆にも剣司の口の中に入り込み、中を撫で上げていく。

 舐め上げ、吸い上げ、時にくすぐり、兎姫の舌は剣司の舌を舐る。

 気を失っていた剣司は飼い慣らされ、求めるように自らの舌を絡ませていく。


「うんっ」


 縋るようなじゃれつくような剣司の動きに兎姫も思わず声を上げるほど喜び、更に絡みを強める。

 そして、精気の吸い込みを徐々に始める。

 精気を吸い取られるのは自分が吸い取られていくようで本来なら不快だ。

 だが心地よい舌同士の絡みと共に精気を吸い上げられていくのが、剣司には気持ちよく吸い上げられていく。

 むしろ吸い上げられる程に安堵を感じ自ら差し出す。


(おおっ、何という美味じゃ)


 兎姫も剣司の精気の味と、差し出す行動が好ましく更に激しく吸い込む。

 更に精気を求めようと兎姫は剣司の顔を挟んでいた腕を後頭部と背中に回し、抱き寄せた。

 剣司の身体の感触を強く感じた兎姫は、身体が熱くなっていく。


「……舞」


 一瞬、口が離れたとき、剣司が舞の名前を呟いた。

 熱くなった身体の温もりと感覚からか、舞の香りが強う出たためか、剣司は舞のことを無意識に思い起こした。


「むうっ」


 だが身体の主の名前を呼ばれたことに兎姫は、何故か腹が立ち、激しく吸い上げる。

 しかし、それまで兎姫に流れ込んでいた精気が舞の方へ流れていき、兎姫の中で、封印が再び力を増していった。


「ま、まずい、うっ」


 兎姫は一旦離れようとしたが、剣司が無意識に腕を動かし兎姫を抱き寄せた。

 抱き寄せられた兎姫は逃げられず、なすがままとなる。

 しかも剣司に抱き寄せられたのが気持ちよく、兎姫の力が抜けていく。

 剣司を支える力もなくなり、兎姫は押し倒された。

 のしかかられたが、重力も加わり剣司の感触をより強く感じ兎姫はもっと感じたくて逃げられない。

 流れ込む剣司の精気の感触も心地よく、吸い込む事を止めようとしない。

 精気が流れ込むのが舞の方であるのが不本意であり、不満だったが、拒む気にはなれなかった。

 兎姫はそのまま精気を受け入れ、やがて精気を注がれた舞の力が復活し、兎姫は封印された。

 兎姫はそれを悔しがったが、嬉しさと、途切れることを残念に思った。




「うっ」


「起きた?」


「舞」


 剣司が目覚めるとそこにいたのは退魔巫女の衣装を纏った舞だった。


「無事だったの?」


「剣司のおかげよ、剣司が精気をくれたから」


「そう……」


 気絶させられ何も出来なかった剣司だった。

 だが、舞が戻ってきたのは封印が成功した証拠であり精気を流し込めたのだろう。

 良いことなのだが、何故そうなったのか分からず、剣司は気分が悪かった。

 そもそも自分が舞を守り切れず、封印が解けるのを許したこと、兎姫を抑えられなかったこと、剣司自身の力不足が剣司には許せなかった。

 しかも舞の態度が何処かよそよそしい、いや不機嫌に見える。


「何か怒っている?」


「別に、ぬりかべも退治できたんだから、帰りましょう」


「ま、待って」


 そう言って返信を解除した舞は足早にその場を去り、剣司は慌ててあとを追いかけた。


(何を怒っているの)


 歩きながら舞は、心の中で呟いた。

 剣司が身を挺して守ってくれたことも、舞の身体の事を思ってくれたのも分かる。

 だが、舞ではなく兎姫に誘惑され籠絡された事が不満だった。


(自分の身体なのに)


 操られていたとはいえ、自分の身体であり、剣司のことが好きな、いや愛している舞としては、身体を好んでくれるのは、恥ずかしいが嬉しい。

 しかし、兎姫に乗っ取られているときにされると、まるで兎姫に奪われたような気分になる。

 同じ身体なので、剣司がどんな愛撫を行っているか分かってしまう。

 封印されている間は身体は動かせないのに感覚だけが伝わって来ている。

 それだけに剣司を奪われたように愛は感じてしまい、より悔しかった。

 しかも剣司が兎姫に気があるようだ。

 あんなに激しく兎姫を求め抱き寄せてきたことを舞の身体は覚えている。


「ねえ……」


 剣司に尋ねようと何度も振り向くがそのたびに舞は黙り込んだ。

 口を開けようとすると、剣司のキスの感触、兎姫と激しく絡み合ったときの感触がまざまざと唇と舌が思い出し舞の脳裏に映し出す。

 あまりにも甘美で心地よい感触に舞も浸りたくなるが、兎姫に向けられた事を思い出すと、記憶を封印しようと口を固く閉ざしてしまう。


「舞、どうしたんだよ」


 剣司が声をかけてきても、舞は黙ったままだった。


「何だよ……」


 剣司も声をかけられなかった。

 舞を守り切れなかったことを約束を果たせなかった引け目があるからだ。

 何故か今回は封印できたが、何故出来たのか分からない。


「舞を守らないと」


 剣司は呟き、強くなろうと決意を固めた。




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