不良に取り囲まれる剣司と兎姫
「やっちまえ!」
剣司を囲んだ不良の一人が叫ぶと、一斉に剣司へ殺到し襲い掛かってきた。
だが剣司は関節を極めていた不良を前にいた仲間に投げつけ、突進を妨げる。
同時に剣司は振り返り、後ろからやってくる不良仲間に突進。
一人を殴り倒した。
「へぶっ」
「にゃろっ」
左右の不良が殴りかかってくるが、しゃがんで避けると共に足払いを仕掛け転ばせる。
そしてバランスが崩れたところを掴み、投げ飛ばして、不良仲間にぶつける。
そうしたことを続け、十数人の不良を剣司は一人で倒した。
「どうだ?」
最後の一人になった不良の関節を極めながら剣司は尋ねた。
「や、止めてくれ! 参った! 参った!」
「命が惜しかったら、彼女にはもう、近づくなよ」
「わ、分かった! 分かった!」
彼女、兎姫に吸い殺されるからな、と言う意味を込めてドスのきいた声で剣司は言うと不良は怯えた声で返事をする。
「お前の女にはもう手出ししない!」
「ふんっ」
最後には泣き始めたので、剣司は不良を解放、正確には突き放した。
「お、覚えていやがれっ!」
解放された不良は逃げ出した。
地面に倒れていた連中も、続々と起き上がり、束になっても敵わない剣司から逃げようと退散した。
「……ああも三下の台詞を言うとは」
マンガのテンプレ台詞を吐く事に剣司は呆れた、何もせず不良達を見送った。
「で? どうして連中を襲って捕らえて精気を吸わなかったんだ?」
剣司は兎姫に尋ねた。
「気が削がれたのじゃ」
兎姫はあそっぽを向いて答えた。
吸い取る瞬間、剣司の顔を思い出したなど、千年を生きた妖怪、妖魔である兎姫には恥ずかしすぎて口に出来なかった。
まして本人になど言いたくない。
「まあ、どうでも良いか」
剣司も特に深く追求しなかった。
一番重要なことがあるからだ。
「封印させて貰うぞ」
「さて、どうしようかのう」
兎姫は剣司に背を向けて言う。
適当に流されたことに怒っていたが、剣司に声をかけられ緩む顔を、兎姫は見せたくないからだった。
「どうしたのじゃ? いつものように押し倒さぬのか」
迫ってこない剣司に兎姫は尋ねた。
頭の上の長い耳を動かし、剣司の挙動に注目する。
「無理矢理するのは良くないから、舞も大切だけど、君も、兎姫も大切なんだ。……嫌がるのに無理矢理キスするのは良くないから。今まで無理矢理やってゴメン」
剣司は謝った。
先ほども、嫌がる兎姫の顔と今朝の嫌がる舞の顔が重なって、無理矢理キスするのを躊躇った。
同じ顔だが、表情がまるで違う二人なのに、押し倒されたときの表情が一緒だった。
罪悪感を感じ思わず押し倒す力を緩めてしまい、逃がしてしまうほどに。
逃がしてしまったのは失態だったが、剣司には無理矢理抑える事が出来なかった。
「な、何を言っている」
兎姫は声を震えさせた。
「そのような言葉で、なびくと思っておるのか、たわけ者」
兎姫は憎まれ口を叩くが動揺して声が震えた。
「あ、いや」
告白じみた言葉を口にしたことに剣司は動揺し、顔を真っ赤に染めた。
「何を真っ赤に染めておるのじゃ。こっちまで恥ずかしくなるわっ!」
動揺した剣司に苛立った兎姫は振り向いて言うと剣司に近づく。
「ほれっ」
「えっ」
「先ほど助けた礼じゃ。妾は妖魔じゃが受けた恩を返さぬような心根ではない」
剣司の返答を兎姫は自分の口で塞いだ。
自ら舌を送り込み、剣司の口の中を這わせる。
兎のように跳ね回る舌を抑えようとしたが、その前に兎姫は素早く舌を引っ込め、唇を離した。
「お、おい」
「ここまでじゃ」
「精気を入れて封印するからもっとキスさせろ」
「妾を捕まえぬのか?」
キスを求めても強制しない剣司を不思議に思った兎姫は尋ねた。
「無理矢理は嫌だろう。嫌がることをして済まなかった」
「それでどうやってキスするのじゃ?」
「大人しくして欲しいんだが」
「構わぬぞ」
「そんなこと……え?」
思わぬ兎姫の言葉、封印の為のキスを許すという言葉に剣司は驚いた。
「……良いのか?」
「お主の女なのじゃろう? ならばキスの一つをしてもおかしくはなかろう」
妖艶な笑みを浮かべる兎姫の美しさに剣司は生唾を呑み込んだ。
「さあ、しておくれ、ああ、優しくして欲しいのう」
剣司はゆっくりと抱き寄せた。
左右の腕を兎仙の後ろに回しマントの下に入れて背中にふれる。
「あんっ」
背中の素肌に触れた瞬間、その痺れるような感触に兎姫は甘い吐息のような声を上げ、剣司をドキリとさせる。
それでもなお剣司は、腕を動かし兎姫の身体を抱き寄せ、回した腕を動かし優しく身体を撫でながら再びキスをした。
舌を入れて精気を入れようとするが、再び兎仙が舌を伸ばしてきて口の中を跳ね回る。
その動きが奔放なため気持ちよく精気を入れる事に集中できない。
ようやく舌で押さえつけ精気を入れる。
だが途中で兎姫は舌を引っ込め、剣司から離れた。
「終いじゃ」
兎姫は剣司の身体からも離れくるりと回り、翻るマントから大きく開いた衣装から、まばゆい背中を見せて言う。
「最後まで精気を入れさせろ」
「どうしようかのう」
迫ってくる剣司に、自分の唇を指で撫でながら、いたずらっぽく兎姫は言う。
「もっと楽しみたいんじゃが」
「大人しく封印されろ」
「妾とのキスは嫌か」
「なっ」
上目遣いに兎姫が言ってきて剣司は黙り込んだ。
確かに兎姫のキスは気持ちよかった。
奔放だが気持ちの良い部分を的確に刺激するのは心地よい。
もっとしていたい。
だが、相手は妖魔であり、舞の身体を乗っ取っている。
精気を入れて封印しなければならない。
理性と義務感が理解していても、心と体が兎姫を求めていた。
「くくくっ」
剣司から離れて、前屈みになり動揺する剣司に、姫は笑いかけた。
それまでのような妖艶な不敵な笑いではなく、心底楽しそうな少女のような笑みに剣司はドキッとした。
実際、兎姫も心から楽しんでいた。
剣司にも伝わって兎姫が妖魔であるにも関わらず心が踊る。
そして、周囲への警戒も疎かになり、突如二人は斬撃を受ける。
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