カマイタチの奇襲 傷を受ける兎姫

 剣司から離れていた兎姫に突如、別の妖魔が接近した。


「なっ」


 警戒を解いていた兎姫は攻撃された瞬間、驚いた。

 いきなりハイレグスーツが切り裂かれ、その下の肌が露わになり動揺した。

 兎姫のスーツを切り裂いた妖魔は、すぐさま反転し、再び攻撃しようとした。


「兎姫!」


 剣司は飛び出し、兎姫を攻撃しようとした妖魔に刀を振るう。

 だが刀身が捕らえる前に妖魔は軌道を変えて、刀身をすり抜けると、背後の兎姫を再び切り裂く。


「あうっ」


 今度はスーツだけでなくその下の肌まで切り裂かれた。

 兎姫の白い肌が露わになり、珠のような肌に赤い筋が月の光に浮かび上がる。


「にゃろっ!」


 兎姫を舞の身体を傷つけられたことに怒った剣司が妖魔に対して刀を振って払おうとする。

 しかし妖魔の動きは素早く、避けられてしまう。


「カマイタチか!」


 イタチのような姿でありながら、前足が鎌になっている妖魔を見て剣司は叫んだ。

 有名な妖魔で通常は三匹一体で行動し、最初の一匹が転ばせ、二匹目が斬り、三匹目が薬を塗る。

 通常ならば襲われた人間の傷は消えるので少しいたずらが過ぎる妖怪程度だ。

 だが、何らかの理由で一匹が欠けたり、はぐれたりすると連携が崩れ、人を襲うだけの妖魔となる。


「街で暴れている妖魔はカマイタチだったのか」


 妖魔退治に出る前の情報を思い出した剣司は戦おうとした。


「よくも妾の肌を傷つけてくれたな! カマイタチとて許さぬ!」


 だが、自分の身体を傷つけられた兎姫が怒って、剣司の前に出てカマイタチを攻撃する。


「塵となれっ!」


 檜扇を広げるとカマイタチに向け光球を放った。

 だが光球があたる寸前、カマイタチは飛び去り光球の爆発を避けてしまった。


「ちょこざいな!」


 避けられたことに怒った兎姫は更に光球を放つが、カマイタチはひょいひょいと避ける。

 それどころか、隙を突いて兎姫に突進し、スーツを切り刻んだ。


「きゃっ」


 スーツを裂かれ、肌を曝された兎姫は顔を赤くして叫ぶ。


「こしゃくな!」


 光線に切り替え、カマイタチを執拗に攻撃する。

 だが兎姫をスピードの速いカマイタチを捕らえられない。

 光線と光球による破壊力を得意とする兎姫にとって小さく速いカマイタチは相性が悪い。

 当たらない上、一方的に攻撃を受ける。

 しかも徐々に兎姫の放つ光線の回数が減ってくる。


「くっ」


 兎姫の顔が苦痛に歪む。

 先ほどから光線や光球を撃ちすぎたため、精気が急速に消費し、つらくなっている。

 狙いも荒くなりカマイタチにかすりもしなくなる。

 兎姫の苦境をカマイタチも察知し、攻撃に転じる。


「あうっ」


 檜扇を握っている右のグローブが裂かれ白い肌が露わになり、兎姫の身体に赤い線が走る。


「こ、この! うっ!」


 檜扇を振り回すが、傷の痛みが響き、兎姫の動きが鈍り、カマイタチが更に攻撃を加える。


「きゃうっ」


 数カ所同時に布が裂かれ血がにじみ出て兎姫は悲鳴を上げる。

 両腕を上げ身体を庇おうとするあカマイタチは容赦なく兎姫を斬り付ける。


「あああっっっ」


 傷の数が増え、出来る傷もより深くなっていき、兎姫は怯えた。


「止めろ!」


 そこへ剣司は兎姫を庇うように飛び込んだ。


「たあっ」


 兎姫に迫っていたカマイタチを剣司は剣を振って打ち返した。


「きいいいっっっ」


 攻撃を邪魔されたカマイタチは興奮して剣司を威嚇し、攻撃を加える。

 迫ってくるカマイタチに剣司は剣を振るうが、カマイタチは軌道を変えて避けようとする。


「はっ」


 だが、剣司も刀身の軌道を変えてカマイタチの動きに追随し、カマイタチの身体を捕らえた。


「ぎいいいいいっっっっ」


 刀身が食い込みカマイタチは真っ二つに両断され、断末魔を残して消滅した。


「スピードになれるのに時間がかかった」


 カマイタチの動きを見極めるのに時間がかかってしまったことを悔いつつ、剣司は振り返り、兎姫のもとへ行く。


「大丈夫か」

「剣司……」


 兎姫は剣司が近づくと安堵したえ剣司に身体を預けた。


「うっ」


 傷だらけの身体が触れると痛みが走り再び悲鳴を上げる。


「大丈夫か?」

「……なんとかのう」


 剣司に抱かれた兎姫は笑みを浮かべた。

 強がりではなかった。

 抱かれた安堵と剣司の身体から伝わる温もりが心地よく安心したのだ。


「傷を治す精気が足りぬ。少しくれぬか」

「ああ」


 剣司はゆっくり顔を近づけキスをした。

 ゆっくりと精気を注ぎ込み、受け取った兎姫はあ身体の傷を治していく。

 身体の傷がなくなり衣装の破れも修復されると、剣司は唇を離した。


「どうしたのじゃ?」


 突然唇を離した剣司に驚いた兎姫は尋ねる。


「何故、離す」

「このままだと封印してしまうだろうが」

「……封印するのが、お主の役目じゃろう」

「無理矢理は嫌なんだろう」


 この前の舞の顔と兎姫の顔がダブり剣司はキスを躊躇した。

 兎姫が舞の身体を乗っ取って操っているので、同じ顔のはずだが雰囲気が違うので別人のようだ。

 だが、剣司は気持ち的に同じように見え、封印を躊躇した。


「……構わぬ」


 だが、兎姫は素直に承諾してきた。


「何故」


 てっきり断ると思っていたのに予想外の言葉に剣司は驚き尋ねる。


「攻撃を受けて傷を負い疲れた。しばし休む、その間、舞というこの身体の持ち主に身体を返してもよい」

「……なら遠慮なく」


 剣司は再び唇を近づけキスをした。

 兎姫も舌を伸ばし求めるように吸う。

 精気を送り込むと更に欲しがるように舌を動かして行く。

 やがて精気に満ちると、兎姫の身体は輝きだし、舞に戻っていった。


「戻って良かった」


 封印され舞が戻ってきたことを剣司は喜んだ。


「あ……」


 キスを終えた後の舞の顔は真っ赤だった。

 だがすぐに悲しげな顔をし、眉を寄せ不機嫌になる。


「どうしたの?」

「……何でも無い」


 剣司の問いかけに舞は答えず、剣司から離れて先に神社に帰ってしまった。


「どうしたんだよ。舞」


 何故、舞が離れていったのか剣司には分からなかった。

 いや、分かりたくなかった。




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