ピンチになる事は分かっても舞を傷つけるなんて出来ない

「はあっ」


 一際大きな光球が剣司の近くに投げ込まれた。

 魅力的な兎姫の身体から目を逸らしていた剣司は気が付くのが遅れた。


「しまった!」


 避けきれず、至近で激しい爆発が起き、剣司は衝撃波で吹き飛ばされる。


「うわあああっっっ」


 剣司は地面を転がり、爆発の衝撃で動けなくなってしまった。


「ほほほっ、手こずらせてくれたのう」


 檜扇で口を隠し高笑いを放ちながら、バニースーツに身を包んだ兎姫は怪しい黒光りを放つヒールを鳴らし剣司に近づいた。


「ううっ」


 ボロボロになった剣司だったが、それでも闘志は衰えず刀を握ろうとした。


「ほう、まだ抵抗しようとは見上げた根性じゃ。じゃが」

「がっ」


 兎姫のヒールが剣司の右手の甲に突き刺さり剣司は悲鳴を上げた。

 愛しくかけがえのない幼馴染であり許嫁を乗っ取った憎き相手を睨み付けるべく剣司は顔を上げた。

 だが、目に入ってきたのは、ピッチリとしたスーツに身を包み黒光りするラインを誇示しつつ、輝く肌を露わにした、妖しくも艶めかしい美の化身だった。


「ほほほっ、妾の美貌に心を奪われているようじゃな」


 兎姫の身体は幼馴染の舞のものだ。

 だが、いつもと違う口調、冷酷で見下したような細くつり上がった瞳。

 舞とは真逆なのに、何故か剣司は見とれてしまう。


「じゃが、妾に刀を向けてきたことは、衣装を傷つけたことは万死に値する。精気は美味じゃが仕置きが必要じゃ」


 殺気を纏った酷薄な笑みを兎姫は浮かべる。

 嬲り殺しを愉しむ昏い恐ろしい顔だったが、人を引きつける妖艶な笑みで、剣司も死に追いやる存在だと理解していても魅入られた。


「では、さよならじゃ」


 蠱惑的なラインを持ちグローブに包まれ黒光りする細い指先で持つ檜扇の先端を、兎姫は剣司に向け、光線を放とした。


「うっ」


 だが突如、兎姫の自信に溢れた表情が苦痛に歪む。

 大きく開いていた両脚は閉じられ、膝を合わせ、伸ばしていた背筋を縮め苦痛に耐えようとする。


「な、何じゃ、身体がおかしい……」


 檜扇を握ったままの手を顔や身体に当てて苦痛を抑えようとするが、収まる気配がない。


「な、何じゃ……身体が言うことを……身体の中から何か、あうっ」


 兎姫が悲鳴を上げた直後、口調が変わった。


「け、剣司……」

「舞!」


 バニーガールの衣装のままだが、声は確かに舞のものだった。


「わ……私が……止めているから……早く……封印を……」

「うん」


 剣司は立ち上がり、兎姫に迫った。


「させぬ、うっ」


 迫る剣司に兎姫は檜扇を突き付け光線を浴びせようとするが、苦痛が身体を貫き、先がぶれて光線は外れた。

 剣司はそのまま檜扇を握る腕を左手で掴み、上げると共に、マントの下の背中に右手を回し抱き寄せた。


「!」


 兎姫は避ける事も出来ず、剣司にキスされてしまった。

 唇が触れた瞬間、電撃が走り、突き放そうとしても力が入らなかった。

 何度も手で叩くが、剣司は腕に力を入れて引き寄せ放そうとしない。

 顎の力も抜け、舌の侵入を許し口の中を蹂躙される。


「ううっ」


 残った力も抜けてしまい、檜扇を落とした後の兎姫は、剣司にされるがままだった。

 脚の力も抜けて剣司に身を預ける。

 剣司は左手も腰に回し兎姫の身体を支え、精気を送り込んだ。

 暫くして、兎姫の身体が光り始め衣装が変形し始める。

 光が収まると、舞の退魔巫女の衣装に戻った。


「舞」

「剣司」


 光が収まると、意識を取り戻した舞の声が小さな口から漏れて剣司は封印が成功した事に安堵した。

 だが、舞の顔はみるみるうちに赤くなっていく


「あ、あの……剣司……」

「何?」


 舞は恥ずかしそうに言った。


「……手が……」


 背中に回した両手の位置を意識して剣司は慌てた。

 右手は大きく開いた背中、素肌に触れていた。しかも、指の先端が

 腰に回した左手はハイレグカットの部分に回り滑らかな布地と肌の境界線にある。

 それだけでも非常によろしくないが、身体まで密着させ舞の柔らかい身体を全身で堪能していた。

 鍛えぬいた筋肉だけでなく、微妙な部分に血が集まり堅くなりつつあり、舞に触れそうになる。

 慌てて剣司は舞から離れた。


「ご、ごめん」

「うううん。いいの私のミスだし、剣司が無事でいてくれれば」


 封印が解かれてしまった後悔と抱きしめられた恥ずかしさで俯いたままの舞は小さな声で謝った。


「気にしないで」


 剣司は優しく声をかけると、帰り道を歩み始めた。

 兎姫が仕留めたが、命じられた鬼退治は済ませた。

 だが、舞の中には兎姫が残ったままだ。

 妖魔退治をしていたら同じような事が起きないとも限らない。

 舞に負担をかけてはダメだ。


「強くならないと」


 もっと強くなろうと剣司は心に決めた。




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