第三話 ぬりかべ退治

新たな指令 町中で、ぬりかべを追うが、いきなりピンチ

 前の討伐から数日後、新たな討伐の命令が下り、剣司と舞が向かったのは、町の中だった。


「いつもの服装の方が良いんだけどな」


 妖魔討伐のお役目の時は禰宜の服装で行うのだが町中だと流石に目立つ。

 そのため二人は通っている高校の制服で向かった。

 剣司の獲物である刀は竹刀袋に入れて隠している。

 剣道部に所属しているのも剣の鍛錬と、竹刀袋で艤装できるからだ。


「仕方ないわよ」


 隣の舞が明るい声で剣司を慰める。


「町中を歩くには制服の方が良いもの」


 剣司と同じく変装のために高校の制服セーラー服に身を包んでいる。

 見慣れた姿だが、制服を着ると同級生と比べる事が出来るので舞の魅力が余計に分かる。

 同じ屋根の下で暮らしているので、普段は気が付きにくいが、舞は同級生に比べてスタイルがよい。

 普段から綺麗だと思っているが、制服を着ると余計に周りと比べて浮き出ているので余計に意識してしまう。


「ああ」


 舞の声に剣司は顔が赤くなる。

 いつも明るいが、今はいつもより明るい。

 いや、町中でお役目を果たすときは、何故か余計に明るい。

 だから余計に検事の顔が紅くなる。


「楽しそうだね」


「え、そう」


 剣司の言葉に今度は舞は慌てた。


「べ、別に、デートみたいとか、思っていないから、お役目のためだって分かっているから。さ、さあ、行きましょう」

「あ、ああ」


 早口にまくし立てる舞に押されて剣司は町の中を舞と共に妖魔を探す。


「いたわ」


 暫くして、舞が妖魔を探知した。

 舞に案内されて人がいなくなった廃団地に行く。


「ぬりかべ、か」


 四角い灰色の巨大な壁に、目と口があり、手足が付いている妖魔だ。

 人を通せんぼして、時に襲い掛かり精気を奪っていく。


「さっさと片付けよう」


「うん、周囲に誰も居ないし」


 舞は周囲を精気で探り、人が居ないことを確認して剣司に伝える。

 鞄からお役目の道具である榊を舞は取り出し、剣司も竹刀袋から刀を取り出す。


「行くぜ」


 剣司は刀を抜いて飛び出した。

 舞も、祝詞を上げて剣司に身体強化をかけてサポートする。


「はあああっっっはっ!」


 裂帛の気合いと共に剣司は塗り壁に刀を振り、切り裂こうとした。


「ぬおおおおっっ」


 斬られた塗り壁は大声を上げる。


「失敗した」


 剣司の刀は、ぬりかべを捉えたが、切り裂くまでにはいかなかった。

 いつもなら舞の身体強化で簡単に切り裂いている。


「やっぱり力が弱まっているか」


 舞の身体に封印している兎姫を抑える為に力を使いすぎて、剣司に回せる力が弱い。


「それでもやってやるぜ」


 剣司は舞に頼らず、ぬりかべを倒す事を決意し、立ち向かう。


「たああっっ」


 ぬりかべは大柄だが、動きが鈍く当てやすい。

 剣司に傷つけられた、ぬりかべは拳を作り剣司に振り下ろす。


「おっと」


 剣司が避けた後の地面に拳が穿たれ、クレーターが出来る。


「凄い威力だな」


 言葉に出したが、動きが遅く簡単に避けられるため、剣司は脅威に感じなかった。

 その後も、ぬりかべは反撃してくるが、周囲の壁や地面を穿つも、素早く避ける剣司を捉えることは出来ずにいた。

 動きがあ鈍いため剣司の繰り出す斬撃を避ける事が出来ず、徐々に切り刻まれていく。


「ぐおおっっ」


 このままでは負けると思った、ぬりかべは、突如舞に向かって突進した。


「待て!」


 剣司は追いかけて斬り付けるが、分厚い壁のような、ぬりかべは倒れない。


「舞! 危ない!」


 慌てて剣司は舞の元へ行き、塗り壁の進路から追しのける。


「きゃあっ」


 舞の悲鳴が上がる脇で、ぬりかべが駆け抜け、路地の角を曲がりこんだ。


「舞、大丈夫?」


 ぬりかべが離れたのを確認した剣司は舞に尋ねた。


「う、うん」


 舞に怪我はなかったが顔を真っ赤にして言いよどんだ。

 どういうことか剣司が考えていると今の状況、舞に覆い被さっていることに気が付いた。


「ご、ごめん!」


 剣司は慌てて舞から離れた。

 許嫁とはいえ、不用意に触れてはならない。

 だが、触れた時の感触、舞の温もりが今になって、生々しく思い出し剣司を熱くする。

 庇った時に舞の制服が少しはだけて、肌が見えていて、剣司の情欲が点火しそうになる。


「追いかけてくる!」


 舞に襲い掛かる前に剣司は、ぬりかべを追いかけるべく駆け出した。


「ま、待ってって、もう……」


 舞が呼び止める間もなく走って行き、路地の影に消えていく姿を舞は見るしかなかった。


「仕方ないわね」


 舞は立ち上がると、剣司を追いかける為に跡を追い、路地、廃墟となった団地の建物を回り込んだ。

 同時に、ぬりかべが何処に向かったのか、術で探し始めた。


「あれ、意外と近い。って、真横!」


 振り向くと建物の壁から目と口が浮かび手足が生えてきた。

 逃げた、ぬりかべは路地を曲がるとすぐに壁に張り付き擬態していた。

 あとを追った剣司は気が付かず、通り過ぎてしまい、あとから来た舞を見て、ぬりかべは襲い掛かった。


「きゃあっ」


 待ち伏せしていた、ぬりかべが舞に覆い被さり包み込む。

 舞の腕も身体も足も、ぬりかべの膨らむ身体に包まれて行き壁に埋め込まれたような姿になる。

 術で逃れようとするが、ぬりかべが舞の身体を押さえ込み締め上げ、術を使えない。


「舞!」


 悲鳴を聞いて駆けつけた剣司だったが壁に埋め込まれたような舞を助けることが出来ない。


「ううっ」


 ぬりかべは、舞の身体を這うように覆っていき、舞は徐々に沈んでいく。剣司はその姿を見送るしかない。


「まったく、何をやっておるのじゃ」


 舞が完全に、塗り壁の中に埋もれたとき、聞き覚えのある声が、しゃべり方が聞こえてきた。

 次の瞬間、ぬりかべの中からまばゆい光が放たれた。

 そして、ぬりかべが膨れたかと思うと爆ぜ、中から舞が現れた。


「ぬりかべ程度に遅れを取るとは」


 いや現れたのは、舞ではなかった。

 現れた人物は制服姿ではなくバニーガール姿だった。

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