どっちが好き? 問われる剣司

 舞に投げかけられた言葉に剣司は戸惑った。

 先ほど自分が言った感謝の言葉は舞に向けてなのか、兎姫に向けてなのか。

 剣司は一瞬混乱した。


「そりゃ舞に」


「お役目だから言っているんでしょう」


「当たり前だろう」


 剣司と舞は妖魔を退治する郷間神社の一員であり、妖魔は倒すべき存在で、舞はパーt-ナーであり守るべき存在だ。


「そんなことを聞いているんじゃないの。剣司、あなたの本心はどうなの? 時の事隙なんじゃないの」


 剣司は応えられなかった、そのことに驚き絶句した。

 前なら舞だとすぐに言えた。

 だが、兎姫に徐々に心を引かれている。

 舞の中に入って舞を勝手に操る妖魔だが、最近は、親しみを感じていた。


「もう知らない」


 返答に戸惑っている剣司を置いて舞は去ろうとする。


「ま、待ってよ」


 剣司は舞を追いかけようとした。

 運動神経に優れる剣司はすぐに舞を捕まえ止める。


「離してよ!」


「話を聞いて!」


 離れようとする舞を剣司は止める。剣司の方が強いが、嫌がる舞に対する遠慮もあり強引な事も出来なかった。

 二人はしばらくの間、もつれ合ったが、無理に身体を動かした舞がバランスを崩した。


「きゃっ」


「危ない!」


 剣司は慌てて舞を抱き上げた。

 だが、転倒の勢いから逃れるため力任せに引き寄せたため、二人は踊るように回り、建物の壁に張り付いてしまった上、唇同士が触れてしまった。


「!」


 突然、互いに至近距離で見つめ合い、混乱する剣司と舞。

 最初は何が起きたか分からなかったが、やがて自分たちがキスをしていることに気がつく。

 一瞬離れようとした舞だったが、剣司の唇の感触の心地よさに逃げる気力を失い、自分から吸い始める。

 唇と舌を動かして剣司の唇の形をなぞり感触を味わう。

 小動物のような動かし方に剣司も気持ちよくなり自分でも舌を出し愛しい舞を撫でる。

 撫でられる気持ちよさに、舞は驚きつつも痺れるような甘い感触に打ち震え、身を委ねた。

 満足すると舞は唇を離した。


「ぷはっ」


 気持ちよすぎて目は細くなるが、瞳はトロンとなり、小さな口を開き、桃色が掛かった熱い息を吐く。

 身体の血行が良くなり頬がほんのり健康的なピンク色となったこともあって舞の表情はいつもより色ぽか買った。


「もう、ずるいんだから」


 先ほどまでの怒りは霧消し、恥ずかしさから舞は顔を赤らめるが、剣司から視線を外そうとはしなかった。

 何が言いたいのか剣司には分かった。


「もう一度する?」


 剣司が尋ねると、舞は顔を更に赤く染め上げ、無言だった。

 だが、やがて恥ずかしそうに頷く。


「……うん」


 更に顔を恥ずかしそうに赤くするが、嬉しそうに眉を動かす。

 そして二人は再び唇を近づけた。


「あ! 居たぞ!」


 だが、先ほど剣司を捕まえた高校教師に二人は見つかってしまった。


「って! お前ら何をしているんだ!」


「うわっ」


「きゃっ」


 恥ずかしいところを見られて顔を近づけていた剣司と舞はは慌てて離れた。


「無理矢理、連れ込んでキスを迫るとは何事だ!」


「ち、違う」


 兎姫がいたずらで悲鳴を上げた上、剣司が逃げ出した事もあって教師の剣司への印象は最悪。

 そのため、変な誤解をされてしまう。


「え、あえ、え?」


 舞も、恥ずかしさと見つかった事への驚きで混乱し、説明も要領を得ない。


「乱簿して女子を困らせているのか!」


「違う!」


 混乱する舞の様子も教師は悪い方向へ受け止め剣司への追及が厳しくなる。


「詳しい話は学校でして貰うぞ」


「いや、一寸、待って」


 そのまま剣司は学校に連行されそうになった。

 だが、ようやく正気に戻った舞が、気絶している井上を指摘。

 教師が救護のために離れたことで、その場を切り抜け二人は逃げ出した。




「はあ、助かった」


 放課後、剣司はほっと一息吐いた。

 教師から逃げ出した後二人はギリギリで遅刻を回避して登校した。

 下校するまで呼び出しもなかったし、問題は無いと思っている。

 舞は弓道部の部活があり、神社のお勤め、妖魔退治ではなく見習い禰宜としてお祓いの補助の仕事のある剣司が先に帰る事になっていた。


「只今」


「お帰り、息子、婿殿」


 そして剣司が帰宅すると、木刀を二本持った鬼の形相の養父浄明が待っていた。

 引き戸を閉めようとしたが、浄明は脚で押さえて防ぐ。


「どうしました?」


 剣司は恐る恐る尋ねた。


「学校から連絡があったぞ、舞に襲いかかったそうだな」


「違います」


「とぼけるな! 登校途中舞に迫ったそうだな!」


「誤解です!」


 井上を救護した教師は、剣司と舞の事を知らなかったが、回りの先生に聞いて特定した。

 ただ、担任は二人の事情を知っているため、特段問題にしなかったが、授業もあって相談員に頼み家に連絡を入れていた。

 しかし、剣司が舞に手を出したという形に歪曲されて伝わり、浄明が鬼のような形相で出迎えた。


「登校中に娘に手を出すとはけしからん。鍛え直してやる」


 浄明は剣司の肩を握り鍛錬の場へ連れて行く。


「ま、待ってください! これからお祓いの予定では」

「なに、すぐに終わる。それにお前は補助だから祭司である儂が出れば問題ない」


 初撃で痛めつけるという意味を理解して剣司は背筋が凍り付いた。


「ま、待って! い、いたたた」


 逃れようとする剣司だが、肩に食い込んだ浄明の指を振り払うことは出来なかった

 鍛錬をする空き地に連れてこられる。

逃げだそうとするが、浄明が持っていた木刀の一本が地面に投げつけられ突き刺さり、剣司の行く手を阻む。


「始めるぞ!」


「畜生!」


 剣司は突き刺さった木刀を抜き取り浄明に向かって構えた。

 せめて一矢報いる、という思いで木刀を突き出す。

 だが、浄明は簡単に避けると、剣司に向かって面を撃ち込んだ。


「がはっ」


 ストレートに額に一本入り剣司の意識が遠ざかる。


「やっぱ、舞の方が良い……」


 意識を失う寸前、剣司は思った。

 散々振り回して、後始末もせず勝手に封印されて逃げ去り、ボロ雑巾にされたのは兎姫のせいだ、と剣司は結論づけ、そのまま気絶した。

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守り抜きたい、おっとり幼馴染退魔巫女が自分の身体に高飛車バニーガール妖魔を封印してしまった。封印が解けるとキスして再封印しなければならないが妖魔が誘惑してくる……メッチャ手を出したい 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

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