舞の秘密と互いを思いやる心

 剣司に言われて舞は自分の姿を見た。

 銀縁の白いメッシュで作られた千早の下に見えるのは胸の谷間が大きく見えるほど開いた緋色のインナーに胸より上の無い小袖。

 緋色の袴は非常に短く、揺れてインナーのクロッチが見え隠れする。

 左右の開口部は大きくカットの鋭いインナーが隠しきれない鼠径部さえ見せ、インナーと肌色の対比を際立たせる。

 結び紐も輪と垂れ下がった紐が揺れて踊るようでより扇情的だ。

 袴から伸びる牝鹿のような足は緋色のオーバーニーインナーで覆われ、膝下からは白いブーツに包まれている。

 袖も袖口の大きな緋色のグローブに肘から先に装飾のように白い袖を纏い、揺れる布の奥の細腕を想像してしまう。

首元は勾玉を模した首飾りだけで肩も、うなじも一糸も飾らぬ為、彼女の肌を余すこと無く露わにしている。

 いつの間にか退魔巫女の姿になっていた。


「や、やだ私」


 舞自身も恥ずかしいのだが、百年に一人の逸材であり精気に溢れる舞は無意識に何故かこのような姿、退魔巫女の姿になってしまう。

 舞は慌てて変身を解除して普通の巫女服姿に戻った。


「少しやりすぎだよ」


 舞は郷間神社始まって以来の天才とも言われる程、降魔の術の才能に溢れている。

 だが、才能がありすぎるせいか付与、強化の術式も無意識に行って仕舞う。


「ごめんなさい。でも剣司が傷ついていたから」


 咄嗟に力を出して仕舞ったのが恥ずかしいのと、剣司を心配して舞は潤んだ瞳で見つめる。


「ありがとう舞」

「剣司」


 二人は互いに近づき重なろうとした。


「いい気なものだな」

「ひゃあっ」


 ボロボロになった浄明に声をかけられ、唇同士を近づけていた舞と剣司は離れた。


「舞の能力付与で力押しか。守るべき対象に助けられるとは情けない」

「ぐっ」


 痛いところを突かれて剣司は悔しさ、何より情けないと思った。

 守るべき相手に守られた事は、剣司自身が良く知っている。


「お、お父様、私は剣司が心配で」


 舞はオロオロしながら言い訳する。


「そんなことで妖魔を倒せるのか? 明日も妖魔退治だろう」

「必ず、役目を果たして見せます」


 尋ねてくる浄明に剣司は意気込んだ。


「まあ、二人で力を合わせれば明日のお役目は果たせるか」

「では」

「明日は二人で行け。必ず役目を果たせ」

「はい」


 剣司が嬉しそうに言うと、浄明は背を向けて神社の方へ戻っていった。


「良かったわね剣司」

「ありがとう。けど、本当に舞も来るの?」


 剣司は舞に問いかけた。

 本当は剣司だけで討伐しようと考えていたのだ。


「妖魔を見過ごすことなんて出来ないよ」


 しかし、舞も付いていくと言って聞かない。

 舞には安全なところにいて欲しい。

 だが、郷間神社の娘として、巫女の役目を、妖魔討伐のお役目果たしたい思いが強く、付いていくと言って聞かない。


「それに私も剣司の役に立ちたい」

「ありがとう、けど危険だよ。それに舞の身体には……」


 剣司は悔しさで口を閉じた。

 前回の討伐で、強力な妖魔兎姫と遭遇し、剣司は倒れた。

 舞が自分の身体に封印したが不完全であり、精気が少なくなると封印が解かれ、身体を乗っ取られる。

 また乗っ取られるのではないかと剣司は恐れていた。


「私は大丈夫よ」


 舞も分かっていたが、剣司の身を案じて一緒に行くと言って聞かない。


「危険なのは剣司もでしょう。それに」

「それに?」

「剣司が守ってくれるでしょう」

「お、おう。任せろ」


 信じきった思いを込めた瞳で舞に見つめられた剣司は照れながら応えた。


「そ、それと」

「どうした」

「さっき、治癒の術式を使ったから精気が少なくなってしまって……」


 段々、声が小さくなっていく舞の言葉に剣司は更に顔を赤くした。

 精気を送り込むにはキスをしなければならない。

 他の方法でも出来ないか試してみたが、キスが一番効率がよかった。


「……」


 剣司は無言で舞に近づいていった。

 二人は見つめ合い、無言のままキスをしようとする。


「おい剣司」

「は、はいっ」


 その時浄明が木刀を持って戻ってきた。


「今日の稽古がまだだからやるぞ」

「お願いしま、すっ」


 木刀を投げつけられた剣司は慌てて受け取る。

 次の瞬間には、浄明が前に現れ夜叉のような表情で木刀を振り落とす。


「ぐおっ!」

「この程度の事対応できないと明日のお役目は難しいぞ」


 次々と木刀を振るってくる浄明の太刀筋に対応する事で剣司は精一杯になる。


「って、激しすぎませんか」


 いつもより木刀を打ち付ける密度が倍くらい激しかった。


「何か怒っていませんか」

「怒っていないぞ。実の娘に許嫁の味方をされ、怪我の手当もしてくれず、男と、義理の息子といちゃつかれていたのを見て怒っているわけではない」

「めちゃくちゃ怒っていませんかっ!」

「義父の言葉を信じないとは悪い息子だ! 気合いを入れてやる!」

「や、八つ当たり! ぐあっ」


 抗議する剣司に浄明は木刀を打ち付けた。


「言い訳無用! そんなことでは明日の妖魔は討滅できないぞ!」

「ちょ、ちょっと」

「そんなことで舞を守り切れるか!」

「ええい! やってやる!」


 浄明の挑発に乗った剣司は食ってかかった。

 剣司は浄明にメタメタに木刀を打ち込まれ、倒れるまで修行は続いた。

 その間、舞はオロオロして何も出来ず、剣司が倒れてからようやく治癒の術式をかけた。

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