第二話 鬼退治で剣司と舞がピンチ
新たな妖魔退治を命令されたけど舞が心配だ
「新たな討伐か」
郷間神社の見習い禰宜である新田剣司は、与えられた討伐の指示に緊張した。
この世には科学では解明出来ない妖怪がいて、人間や生物の中に流れる不可視のエネルギー精気を吸って生きていた。
だが人間に悪さをする一部の妖怪は妖魔と呼び、恐れられていた。
その妖魔を退治する役目を剣司が所属する郷間神社は密かに請け負っていた。
「今度は鬼か」
日本各地の伝承に出てくる鬼。
負の感情や精気が集まり具現化する妖魔のため発生しやすい上に、人々に災いを与える。
しかも放置しておくと、どんどん負の精気や動物や人を襲って精気を集め強大化する。
放置する事は出来ない。
「でも、もう何人も襲われているよ」
郷間神社の見習い巫女である郷間舞が意気込んで言う。
剣司の相方であり、同じく妖魔妖魔討伐の役目を負っている。
今回の指令も剣司と一緒に命令された。
司令と共に添付された資料では既に、数人を襲っており、一刻の猶予もなかった。
「でも大丈夫?」
剣司は舞に尋ねた。
直前の討伐では強大な妖魔である兎姫に苦戦。剣司は倒れ、舞も捕らえられて仕舞うピンチになった。
剣司の危機に舞は自らの身体に妖魔である兎姫を封印することで討伐する事が出来た。
「もしも封印が解かれたら大変だ」
舞は先の討伐で妖魔である兎姫の封印に失敗しており、身体を乗っ取られた。
どうにか封印できたが、再び封印が破れ、舞が乗っ取られることを剣司は危惧した。
「大丈夫よ。封印は安定しているから」
舞は気丈に振る舞ったが、剣司は心配だった。
だが、このことを二人は上に報告することが出来なかった。
兎姫程の妖魔になれば、再び封印が解かれ暴れないよう、完全に封印、あるいは消滅させる必要がある。
そのため、舞ごと封印、あるいは消滅させられる危険があった。
「このことは黙っていて」
剣司と離れたくない舞は、兎姫を封印した直後報告しないよう頼み込み、剣司も最後には折れて黙ることを選択した。
神社に戻っても運良く、兎姫を封印していることがバレずに済み、兎姫が再び現れる事はなく、二人は平穏な日常を取り戻したかに見えた。
だが、兎姫の討伐から数日経った今日、舞と剣司は再び妖魔退治を命令された。
「討伐の中で、もしも封印が解けたら」
剣司は不安だった。
また封印が解けて兎姫に乗っ取られたら、兎姫は舞の身体を食い破ろうとするだろう。
舞は代々続く郷間神社の巫女であり、才能も資質もあり、封印が破れても兎姫とその力を舞の身体の中に押しとどめている。
しかし、完全復活を企む兎姫は大量の精気を得て食い破ろうと虎視眈々と狙っている。
「大丈夫。封印していても討伐に参加出来るよ」
剣司の元から離れたくない舞は必死にアピールする。
危険なので剣司は舞に残って欲しかった。
だが、剣司と共に生きたくて、元気な様に振る舞いつつも、目を潤ませ連れて行くように懇願する舞に剣司は折れた。
「行こう舞」
「うん」
許可を得た舞は喜んで、お役目、討伐を果たす為の準備を始めた。
剣司も支度を行い二人は衣装、禰宜と巫女の姿ですぐさま現場に向かった。
「いたよ」
報告のあった場所に行くと舞は妖魔の気配を感じ、剣司に伝えた。
舞のゆぶさす方向を見ると確かに妖魔がいた。
「思ったより大きいな」
普通の人より二回りは大きく、筋肉が以上に盛り上がった赤い肌を持つ巨人。
頭からは二本の角が突き出ている上、目は金色に輝いている。
多数の動物や人間を食べたに違いない。
一刻も早く退治しなければならなかった。
「ぐおおおっっ」
剣司と舞に気が付いた鬼は吠えると金棒を持って近づいてきた。
「仕掛ける!」
「任せて」
剣司が飛び出すと、舞は両手を胸の前で握りしめ、祝詞を唱え始めた。
舞の身体が輝くと、術が発動し剣司の身体も徐々に輝き始めた。
身体強化の術が発動し、剣司は加速して鬼に刀を振るい下ろした。
「たああああっっっ」
「ぐおうっ」
剣司の振り下ろしに鬼は金棒を振り上げて防御する。
刀と金棒が激突し鋭い金属音が山の中に木霊した。
「切り刻めなかった……」
鬼が強いということもある。
だが、いつもなら舞の術のおかげで簡単に切り落とすことができたはずだ。
いつもより術の威力が小さい、加速も思ったより弱かった。
「やっぱり、封印のせいか」
体内にいる兎姫を封じるためには精気が必要であり、舞が術に込められる精気が制限されているようだ。
「うがっ」
「くっ」
鬼が振り下ろす金棒を剣司は受け止める。
重い打撃のあとの岩が乗っかったような力が剣司の上に加わりジリジリと刀が下がっていく。
「剣司!」
剣司のピンチに舞は焦った。
自分が十分な力を与えられないので、剣司が危機に陥っていると思うと居ても立ってもいられなかった。
「私も戦う」
「よせ!」
剣司が止めるのも聴かず舞は精気を集中させると、身体から光が溢れた。
巫女服は光の粒になって消え、舞の周囲を舞うと再び集まり新たな形を形成する。
銀縁の白いメッシュで作られた千早の下に見えるのは胸の谷間が大きく見えるほど開いた緋色のインナーに胸より上の無い小袖。
緋色の袴は非常に短く、揺れてインナーのクロッチが見え隠れし、左右の開口部は大きくカットの鋭いインナーが隠しきれない鼠径部さえ見せ、インナーと肌色の対比を際立たせる。
袴から伸びる牝鹿のような足は緋色のオーバーニーインナーで覆われ、膝下からは白いブーツに包まれている。
袖も袖口の大きな緋色のグローブに肘から先に装飾のように白い袖を纏い、揺れる布の奥の細腕を想像してしまう。
郷間神社の退魔巫女に舞は変身した。
「退治されなさい!」
更に舞は左手に弓を、右手に矢を精気で具現化させ、矢を弓につがえて、鬼に向けて放った。
「ぎゃあっ」
矢は鬼の右肩を貫き、鬼は悲鳴を上げた。
「そ、そんな……」
だが舞はその結果に呆然とした。
いつもなら、鬼の身体が半分消滅する程の威力だ。
なのに、肩を貫くだけ。
明らかに威力が落ちている。
「も、もう一度」
舞は再び精気を集めて矢を放とうとする。
「止めろ舞!」
「でも」
剣司は止めるが舞は、矢を番えるのを止めなかった。
だが矢が放たれることはなかった。
「うっ……」
弓を引こうとしたとき、突然舞は気を失った。
「精気を使いすぎたんだ」
舞は百年に一度の逸材だが、やはり精気の量には限界がある。
精気を使いすぎれば、気絶してしまう。
封印に精気を使っている状態で変身と術を使うのは、精気の過剰使用であり、消費が多すぎて舞は気絶してしまった。
「うごっ」
「ぐはっ」
舞に意識を向けていた剣司に鬼が拳を放った。
油断していた剣司は吹き飛ばされる。
「ま、舞」
痛みが走る身体を剣司は何とか立ち上がると、鬼は気絶している舞に向かって近づいている。
万事休す、と絶望したとき、舞の身体から光りが溢れた。
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