立ち去ろうとする兎姫 止めに掛かる剣司
「何で現れた!」
舞の身体を乗っ取った兎姫に剣司は叫んだ。
「一反木綿にこの女子の精気が吸われて封印の力が弱まったのじゃ」
腰に両手を当てつつ剣司に答えた。
「よくやったのう一反木綿。褒めてつかわすぞ。何か褒美はいるかのう?」
変身の際に放たれた光で吹き飛ばされ、舞の身体から離れた一反木綿に兎姫は尋ねた。
一反木綿はしばし沈黙すると、再び乗っ取られた舞の身体、兎姫に絡み付いた。
胸の谷間や、両脚の間などに身体を絡め、縛り上げ、絞め上げていく。
「不埒ものめ!」
だが次の瞬間、兎姫は精気を放ち、一反木綿を再び引き離した。
「妾の身体に断りなく触れるな!」
右手に持った黒い檜扇を開くと、先端から光線を発射し、一反木綿の身体を貫く。
「ビイイッ!」
風圧もない光に布のような身体を貫かれ、身体を熱で焼かれた一反木綿は悲鳴を上げた。
「しかも妾から精気を吸おうなど不届き千万!」
兎姫は叫ぶと共に立て続けに光線を放ち一反木綿を細切れにする。
「消え去れ!」
兎姫は檜扇の下に左手を添えると精気を集め、光球を作り出した。
「はあああっっっっ!」
兎姫は大きな光球を作り出すと檜扇を持った右手を後ろに大きく振る。
上げた左足を前に出して軸にし、腰を振り、マントが水平にたなびき肌が露わな背中を見せるほど身体をねじり、腕の回転に勢いを加え、光球を一反木綿に向かって勢いよく投げつけた。
ボロボロになった一反木綿に避ける余裕はなく、光球の直撃を受け爆発。
一糸残らず、消滅してしまった。
「ふんっ、不埒者め」
一反木綿が燃え尽きるのを確認した兎姫は、清々したとばかりに鼻を鳴らし、締め上げられた胸を左手でさする。
「さて、それでは行くかのう」
「待て!」
立ち去ろうとする兎姫を剣司は呼び止めた。
「何じゃ、小僧。妾を呼び止めるとは。返答次第では殺すぞ」
見下すような笑いを浮かべ、殺気を乗せた視線を剣司に浴びせつつ兎姫は肩越しに答える。
冷たい殺意が、見る者を震え上がらせるような目だった。
しかし、剣司は恐れる事なく、兎姫に言った。
「舞をどうする気だ」
「しれたこと。封印が中途半端に効いておるからの。精気を集め、力を蓄え、この身体を食い破り、完全な復活を果たすのよ」
「舞の身体をバラバラにしてか」
「封印の依り代じゃからのう。そうなるのう」
「させるか!」
剣司は兎姫に斬りかかった。
「甘いわっ!」
兎姫はマントを翻し、剣司に振り向きながら檜扇を一振りして光線を放った。
しかし、剣司は殺意の向けられる先を読み取り間一髪で避けた。
だが、兎姫は更に光線を浴びせる。
「ほほほっ、鍛錬の成果かのう。この前よりよく避けおる」
剣司は放たれる無数の光線を的確に避けて接近する。
「じゃが、妾が切れるかのう」
不意に兎姫の攻撃が止んだ。
その隙に刀を兎姫に切り下ろすが、寸前で止めた。
操られているとはいえ、舞の身体である。傷つける事など剣司には出来なかった。
「その甘さが、貴様の弱さじゃ!」
兎姫は至近距離から光線を放った。
「くっ」
剣司は後ろに下がり、放たれる光線を避ける。
「ほほほっ、逃げ回るが良い」
兎姫は剣司に向かって光線をいくつも放つ。
「ほれほれ、ギリギリで避けていては危険じゃぞ!」
兎姫は両手を使い大きな光球を作り出すと、全身を使って投げつけた。
剣司の近くに落とされ、激しい爆発が起きる。
「くっ!」
至近距離で起きた爆発に剣司は巻き込まれて、吹き飛ばされ、地面を転がる。
だが、すぐに起き上がり、新たに放たれた光球を避ける。
「ふむ、なかなかやるのう。いつまで持つかのう」
その後も兎姫は光線と光球を交互に放ち剣司を攻撃する。
だが、剣司も一定の距離を保ち、避ける事に徹する。
「くっ……ちょこざいなっ!」
距離を詰めようとする兎姫から離れ、逃走しようとすると、追撃、あるいは先回りする。
「ええいっ! 鬱陶しい!」
剣司に避けられる事に苛立ちを感じた兎姫の攻撃が荒くなり始めた。
その瞬間、剣司は兎姫に向かって飛び出した。
「ふんっ! 来るかっ!」
迫ってきた剣司に兎姫は攻撃を仕掛ける。
だが、紙一重で剣司は避けると、刀を手放し兎姫に突っ込む。
「なっ」
突然の事に兎姫は対応できず、剣司に両手を掴まれ、押し倒された。
「くっ、放せ!」
「放すか!」
黒いロンググローブ表面を覆うエナメル質独特の質感で掴みにくい兎姫の腕を強い力で握りしめ、剣司は兎姫の細い身体の上に乗っかり地面に押さえつける。
「ひゃんっ」
兎姫の柔らかい身体に鍛えられた剣司の堅い身体が触れ、電撃が走る。
更に剣司は両足で時の体を挟み込み、状態を倒して地面に押しつける。
力で挟まれ変形して身体が上げる悲鳴が兎姫の口から漏れた。
それでもなお兎姫は剣司を睨み付けて叫ぶ。
「な、何をするつもりじゃ!」
「舞に精気を送り込んで封印をする」
剣司の言葉に兎姫は顔を蒼白にした。
「や、止めよっ! 無理矢理組み敷いて襲うのかっ! この獣がっ!」
兎姫は顔を振り、キスを避けようと端正な顔を左右に振る。
だが剣司も執拗に追いかけ、唇同士を触れさせる。
「うぐっ」
触れた瞬間、兎姫の身体には電撃が走り、動きが止まった。
剣司の舌が入り込んでくるのを止めようとするが顎に力が這い入らず、侵入を許してしまった。
「うくっ」
入ってきた舌が刃のように兎姫の口の中を動き回る。
その荒々しい動きに兎姫は抵抗できなかった。
そして送られてくる精気の熱い熱量と勢いに抵抗できず、兎姫の意識は翻弄され、押し流され、徐々におぼろげになっていった。
やがて抵抗を止め、なすがままとなった兎姫だが、それでも剣司はキスを止めず夢中で吸う。
そして再び身体が光り、変身するが目を瞑って無我夢中でキスする剣司は気が付かない。
「い、いつまでキスしているのよ!」
「ふべっ」
白いロンググローブに包まれた舞の平手打ちでようやく剣司は我に返り、舞が戻ったことに気が付いた。
「ま、舞っ! 戻ったの!」
「さっきからね」
顔を真っ赤にして怒りながら舞は言う。
「帰るわよ」
「精気は十分なのか?」
「だ、誰かさんが、無理矢理注いでくれたおかげで満タンよ! それともまだしたいの、無理矢理するの」
「い、いや」
激しくやって仕舞ったことに後ろめたさを感じている剣司は強要する事無く。舞と一緒に神社に帰った。
だが、舞はその日、終始無言だった。
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