第5話
「おーい、雄二!」
ビクッ!
階段下から兄の呼ぶ声がして、僕は飛び上がりそうになった。
「な、なにー?」慌てて部屋から出て、階段に向かう。兄から呼ばれたらすぐに反応するの
は昔からだ。『ちょっとー!まだ作戦の途中なのにー』と、リンカの声が頭に響く。
「お前さあ、誰かからもらった?チョコ」ニヤニヤしている兄が、階段下から見上げてくる。
「え、あ、うん・・・」
「雄二兄ちゃんはね、美咲ちゃんからもらったんだってー」兄からおすそ分けでもらったの
だろう、チョコを両手いっぱいに抱えた妹が、横から顔をのぞかせた。
「へえ、美咲ちゃんももの好きだなあ。付き合って、もう一か月か?」
「あ、うん」もの好きってなんだよ。そう思うが、言い返せない。僕はチョコを溶かしてし
まった後ろめたさと、さっきの出来事で頭が混乱していることもあって、生返事だった。
「俺のもらったチョコ、恵美にも分けたんだけどさ、食べきれないからお前にもやるよ。」
これはもはや毎年の恒例行事となっている。仲田家では毎年、2月14日からの数日間はチ
ョコ食べ放題なのだ。なんか悔しいけど、甘いもの好きな僕にとってはうれしい。兄はあま
り好きじゃないから、ちょっとつまんでは僕らにほとんどをくれる。
『チャンスね。これだけいっぱいチョコがあれば、紛れさせることができるわ』
「え?」リンカの声がまた頭の中でして、僕は思わず声を上げた。
「え、じゃないよ。降りてこいよ。一緒に食おうぜ」兄はそれを自分への返事と思ったよう
で、くるりと背を向けて妹と一緒にリビングに入っていく。
「あ、うん」僕も階段を下りて追いかけた。
紛れさせる、ってどういうことだろう?
『ふふふ、それはまた後で、ゆっくり作戦会議しましょ』
心なしか低くなったリンカの声が、頭の中でこだました。
リビングには、チョコの盛り合わせができていた。これも毎年の見慣れた景色だ。
恵美はこの中から、余ったチョコを100均の入れ物に分けて、明日クラスで義理チョコと
してばらまく。なんというか、ある意味効率的な再利用だ。兄にチョコレートをプレゼント
する女の子たちはかわいそうだけど、恵美は毎年「ただで配れてラッキー」と喜んでいる。
そして、リンカはこの流れに目を付けたのだった。
その恐るべき作戦を、僕はその晩に知ることとなる。
「義理チョコで・・・殺すの?」
夜、家族が寝静まってから「作戦会議」が始まった。といっても、リンカから一方的に殺人
の計画が明かされたのだが。「殺さないと殺される」と聞いた僕には、拒否権はなさそうだ。
「でも・・・なんで親友の武志を殺さないといけないんだよ?」
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