第9話
「あー、これな」洋一は母さんの方をちらっと見て言った。「俺の部屋で話そうぜ」。
そして僕の横をすり抜けて、階段を上がっていった。僕も慌てて続く。
「お前…武志のロッカーにチョコ入れたんだって?」
笑いをこらえきれない、という顔で洋一が聞いてくる。僕は彼の部屋のベッドに腰かけて、
無言でうなずいた。なぜ洋一が知ってるんだ?
「千紗ちゃんに見られたんだろ?あいつ、お前が走って逃げたことまで面白そうにクラス
で話しててよ、俺が廊下を通りかかったときに急に声のトーン上げて「洋一くーん!おはよ
ー」とか言ってきたから、怒鳴りつけてやったんだよ。全部聞こえてるっつうの」
「ど、怒鳴りつけた?何て?」
「『俺の弟が誰を好きになろうと自由だろうが!』って」
あ・・・そうなる。そうなるよね。普通。
「まぁ、俺は応援してるからよ。武志もいいやつだし」「あ、いや、その」
「ただ、さすがに今回は間が悪いっていうか、いきなり靴箱にチョコ入れても誰からかわか
らねえし、これ普通レベルのチョコじゃん?これじゃイマイチだなと思ってさ、持って帰っ
てきてやったんだよ」
なるほど、そういうことだったのか。いや納得してる場合じゃない気も。
「ほらよ」洋一が投げてよこしたそれを、僕は両手でキャッチした。毒が入っているとなる
と、取り扱いも慎重になる。体がだるい感じがしたな、と思っていると、
「ちょっと俺、体だりぃから、夕飯まで寝るわ」と洋一も口にする。不思議な一致だ。
「あ、うん」僕は洋一の背中を見送って、自分の部屋に入った。
『作戦その1は失敗ね』
部屋に入った途端、頭の中で声がした。リンカの声だ。机の引き出しを開けると、中から出
てくる。天使は何も食べなくても平気らしく、今日は一日引き出しの中にいたようだ。
「まさかの展開になっちゃったね」『そうね。もうこのチョコは使えないわ』
「これ、どうするんだよ?そのまま捨てたら、毒が…」
『大丈夫よ』「へっ?」
『箱を持って、軽く叩いてみて』リンカがジェスチャーで示すとおり、僕はチョコの箱を持
ってトンと叩いた。
すると、ポトンと何かが床に落ちた。あの毒薬のカプセルだ。どうなってんの?
『そうやれば、中の毒薬はまた出てくるの』「なるほど」
僕はまたおそるおそる、毒薬のカプセルを拾い上げた。「あれ?」なんか小さくなってる?
『毒が溶けたものを触ってると、ほんのちょーっとずつ、その成分がしみだしてくるの。だ
から体がだるくなって、早く手放して命を守ろうってするのよ』リンカが説明してくれた。
なるほど、だから僕も洋一も、体がだるくなったのか。
『こうなったら、作戦その2よ』リンカは低いトーンで、うれしそうに言った。
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