第7話

武志は中学校の入学式の後に教室で、同じ小学校から来た友達が全員違うクラスになって

途方に暮れていた僕に、最初に話しかけてきた奴だった。

「なあ、君、どこ小?俺、山中」くるっと振り返って武志は、僕に質問してきた。

「え、あ、池元・・・」「おー、池小かあ。3クラスあったんやんな?」「あ、うん」

初対面で距離の近い彼に押されながら、僕は返事をするのが精いっぱいだった。

「山小は2クラスやったから、俺このクラスに友達いてないわー」「あ、僕も」

「え、そうなん?じゃあ、俺ら今日から友達になろうぜ」

「あ、うん」戸惑いながら返事した僕に、武志はその姿勢のまま右手を差し出してきた。

「俺、苗場武志。よろしくな・・・っと、わ!!!」ガダーーン!!

右手を僕の方に伸ばしたまま、武志はイスごとひっくり返った。

「だ、大丈夫?苗場くん」「いってー」武志は腰をさすりながら立ち上がった。

周りから、遠慮がちな笑い声が起こる。緊張気味だった教室の雰囲気が緩むのがわかった。

「だっさー」「っるっせーな、いててて…」僕が笑いながら差し出した手を、武志がつかむ。

あれから3年間、6クラスある僕らの中学校で、僕と武志は奇跡的に同じクラスであり続け

た。これって何分の1の確率なんだろう?

まぁ、それはいいとして…

「武志を殺すか、殺されるか…」僕にはまだ、リンカの言ってることがピンときてなかった。

「だいたい、こんなカプセル、どうやってチョコに埋め込むんだよ?また溶けちゃうんじゃ

…」

『あんたのチョコが溶けたのは、エンジンのかかった船が入ってたから。カプセルならチョ

コは溶けないわよ』

あ、そうか。…って「でも、どうやって埋め込むの?」

『もう、人間は説明がめんどくさいわね。ちょっと何か取って。その本でいいわ』

「え?これ?」僕は、リンカが指さした「中学社会・3年」の教科書を、彼女に渡した。

『見てなさいよ』リンカはそういうと、さっきのカプセルを両手で持ち上げて、その教科書

に向かって放り投げた。すると…

「え?なんで…」教科書の上にポトンと落ちたカプセルは、まるで地面に落ちた雪が溶けて

いくように、その中にじわっと溶けていったんだ。こんなことってある?

びっくりした顔をしている僕に向かって、この話はこれでおしまい、とリンカは宣言した。

『さ、あとは武志に渡す義理チョコに、同じものを溶かしておくだけよ!』

翌日。

葛藤と緊張でほとんど眠れず、ひどい顔のまま僕は一番に登校した。洋一と恵美はいつも遅

刻ギリギリに家を出る僕のイレギュラーな行動に首をひねっていたけど、チョコが一つ減

っていることに気付いた様子はなかった。僕はそのチョコを今、武志のロッカーに忍ばせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る