第2話

「怪しい。お兄ちゃん今日なんか変だよ」「どっ、どこがだよ」

「うーん。あれ?何これ?」ふり返ったと同時に、手元からカバンを奪われた。

「あっ、おい何してんだよ!」

「ストップストップ。いつにも増して挙動不審なので、今から持ち物検査します」

「やめろよ。返せよ」カバンを奪いかえそうと手を伸ばしたが、妹のバスケ部で培った強固

なディフェンスに手も足も出ない帰宅部の僕。

「さあ、何が入っていますかね?」ジジジッ。チャックが開いていく。

万事休す。「チョコレートどろどろ殺人事件」開幕…かと思ったその瞬間。ガチャ。

「ただいまー」溢れんばかりのチョコが入った段ボールを両手に抱えた兄が帰ってきた。

「洋一兄ちゃん!おかえりー」僕のカバンを地面に放り投げて、玄関前にいる漫画でしか見

たことない光景を地でいくキラキラしている方の兄に向かって駆け出した。

「洋一兄ちゃん、今年も相変わらずヤバいね」

神様、仏様、洋一様。僕はカバンを拾い上げ、階段を猛ダッシュで自分の部屋に戻った。

ふー、助かったー。それにしても、相変わらずの洋一だ。

僕と洋一は兄弟だ。普通の兄弟といえば普通だけど、そうじゃないと言えばそうじゃない、

いわゆる同級生兄弟というやつだ。

僕と洋一は双子じゃないけど、学年は同級生。全然謎解き要素はなくて、ただただ洋一は 4

月生まれで、僕は次の年の 3 月生まれ、それだけだ。

そんな同級生兄弟の僕たちのパーツはほぼほぼ似ているけど、僕から見ても圧倒的に洋一

の方がキラキラしている。微妙な配置を洋一は全問正解で、僕は微妙に全部外している。

洋一の方が身長も高いし、頭もいいし、運動も出来る、そして性格もいい。

神様、仏様よあんまりじゃないか。

あいつは学校のほとんど全ての女子からチョコをもらっている、そのほとんどから漏れた

例外のうちの一人が美咲だ。僕にとっては洋一が持って帰ってきたあの箱いっぱいのチョ

コに勝るとも劣らないオンリーワンのチョコがこのカバンの中に入っている。

…入っているのか?溶けたチョコはチョコなのか?これがいわゆるシュレディンガーの猫

ってやつ?ともかく、このカバンの中には美咲のチョコは存在しているのだろうか?

僕はカバンから、さっき溶けたチョコを入れたコンビニ袋を取り出した。

ハッキリ言って汚い。

まだまだ冬だってのに何溶けてんだよ。チョコのバカヤロウ。

これは生チョコだったのかトリュフチョコなのか、はたまた何かをかたどったチョコだっ

たのか、何も分からない。

こんなことで分かるはずもないのに、僕はコンビニ袋のチョコの海に手を突っ込んだ。

「うん?」指先に何かが触れた感触があった、その感触の正体を取り上げた。

チョコで汚れているそれは、ドクターマ○オに出てくるようなカプセルの薬だった。

「ナニコレ?」

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