第4話
「そっ、それは?」
『それはー…ちなみに、あんたって倫理観は強い方?』
「リンリカン?具体的にどういうこと?」
『えーっと、じゃあね、カルネアデスの板って知ってる?』
「カルネアデスノイタ?」
『そう。ある日、一隻の船が難破して、乗組員たちは全員海に投げ出されました。一人の男
が偶然見つけた船の板切れにしがみつきました。そこに別の乗組員も必死に泳いで、この板
切れにつかまろうとしてきました。二人で助かりたいのはやまやまですが、この板切れは一
人分の浮力しかありません。二人でつかまってこの板切れが沈めば二人とも溺れ死んでし
まいます。そこで板切れを最初に掴んでいた男は、やむを得ず必死に泳いできた男を突き飛
ばしました。その結果、突き飛ばされた男はそのまま溺れ死んでしまいました。その後、助
かった男はこの件で裁判にかけられたんだけど、どうなったと思う?』
「そりゃあよく分からないけど殺したんだからあれでしょ、チョウエキってやつでしょ?」
『結果から言うとこの男は無罪になったの?』
「えーっ、なんで?」
『正当防衛の一つに緊急避難というのがあって、自分の命の危機が迫る場合、それを回避す
るために他者を犠牲にするのは許されるっていう法律なの』
「へー、そんなのがあるんだ」
『あんたはこの男のことをどう思う?』
「まあ、無罪ってことなら仕方ないんじゃない?」
『本当に?例えば、死んだ相手が子供だったとしても?』
「うーん…」
『逆に自分が泳いできた方の男だとして、板切れにつかまっていたのが自分より圧倒的に
力の弱い者だったとしたらどうする?』
「どうするって?…そんな状態になったことないから…でも、自分の命が大事かも…」
『じゃあもし目の前で、老い先短い老人と、子供が溺れていたらどっちを助ける?』
「それはー…」
『まあ、つまりこれが倫理ってことなの』
「はあ…」分かったような分からないような…ってかカルネアデスって結局何?誰?
『で、まあ結局ミッションっていうのはある人の殺害依頼なんだけど』サツガイイライ?
『で、ミッション達成出来なかったらあんたが死ぬってだけの話』アンタガシヌ?
「えっ、えっ、えーーーー。いやいやいやなんで僕が、中学生だし」
『神のみぞ知る。まあ、それに神からの殺人の許可証もあるから罪に問われる心配はないし、
なんてたってターゲットはあんたの近くにいる人だから探す手間もかからないから』
サツジンノキョカショウ?「なんだよそれ!人を殺さなきゃ僕が死ぬってこと?」
『そうそう。そしてターゲットはあなたのよく知っている人よ。その人物の名は…』
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