第11話

『なによ?』

「なんで僕が死んでも武志が死んでも、美咲ちゃんは殺されるんだよ?」

『あぁ、そうね、そうなるわよね』リンカはなぜかうれしそうに言った。

「なるよ!どっちにしても殺されるなんて…」

『あの娘には、2方向から毒が来たってこと』

「え?」

『あの娘、相当嫌われてんじゃないの?2人の人間が殺意を抱いて、毒薬入りの食べ物を渡

したのよね。しかもおんなじ日に。こんなこと、私も初めてよ』

「え…」

『でも悪運が強かったのね。持ってて気分が悪くなってポトッと落とした時に、カプセルが

2つとも転がり出ちゃって。しかたないからあたしも船で彼女の前に現れて説明してやっ

たわよ』

「うん…そしたら?」

『相当びっくりしてたけど、2人選ぶってなったときに、思い出した顔があったみたい』

「え…、もしかしてそれが…」

『そう、アンタと兄貴の洋一よ』

「…!」僕は驚いて言葉がでない。

そんな僕の思考を読んで『だいぶ混乱してるわね』とリンカは続けた。

『このカプセルの毒で殺された人はね、そもそもみんなの記憶から消えるの。殺した人も覚

えてないし、家族とか友達の記憶も、もとからいなかったものとして書き換えられる。だか

ら事件にはならない。知ってるのはあたしたちだけ。そういう毒なのよ、これは』

『この国は本当は、少子化なんかじゃないの。ベビーブームだっけ?50年前くらいからど

んどん人口が増え続けて、このままじゃ2億、3億…と増えていって、食糧難とエネルギー

不足が起きるのが目に見えてたんだって。だから30年くらい前に、パパたちが決めたのよ。

そうならないように』

『そう、そのまさかよ。そのおかげで誰が悲しむこともなく、人口増加による危機は免れた。

あたしたちはずっと、そのお手伝いをしてきてるわけ。天使だから』

『まぁ、ここ10年くらいは逆に人口が少なくなってきてるから、もうそろそろこの国では

終わりにして、他の国の人口増加を助けようかと…なによ?』

「あ…えっと…」

『そんなことはどうでもいいから、僕だけが殺される理由を知りたいって?』

いや、どうでもいいとは思ってないけど。「そう、だね、うん」

『簡単じゃないの。あの娘が洋一を殺すのはためらったからよ』

「…‼」

僕はこの日一番といってもいいショックを受けた。考えてみればそういうことなんだろ

うけど、頭が追い付かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る